オーボエリードメーキング
目次
第一章「オーボエリードの仕組みについて」
1.オーボエリード概要
2.リードに使う素材
3.リードの仕組み
4.各部の名称
5.リードの種類
第二章「完成リードについて」
1.完成リードの賢い買い方、選び方
2.完成リードの準備と吹き方
3.完成リードの使い方、保管方法
4.完成リードの掃除
5.完成リードの手直し
6.完成リードの最後(リード作りの第一歩)
第三章「オーボエリードの作り方」
1.リード作りの基本
2.リードの種類とサイズ
3.リードに用いる材料の選択概要
4.リード工具とその使い方
5.舟型ケーンの下準備
6.リードの巻き方
7.リードの削り方
8.リードの再生方法
第四章「オーボエの仲間のリードについて」
1.オーボエミュゼット
2.オーボエダモーレ
3.イングリッシュ・ホルン
4.バスオーボエ
5.ヘッケルフォーン
第一章「オーボエリードの仕組みについて」
1.オーボエリード概要
オーボエのリードは、一枚のケーンを二つ折にしてチューブに縛りつけ、先端を薄く削っ切り離し、更に先端を0.03mmまで薄く仕上げてリード全体が振動する構造をしています。リードはオーボエの演奏にとって最も重要で音が出るかどうかはリード次第で決まります。リードは「音が出る基本性能、音量、音色」がバランス良く出来ていないと使いにくくなります。基本性能とは発音、ピッチ、各音の響きなどを指します。この基本性能が高いほど音量は小さくなり、音色は魅力の薄いリードになります。音量はわずかにバランスの崩すと大きな音が出ます。ただし、崩れすぎるとオーバーブローになって大きな音が出なくなります。音色はバランスの崩れたリードほど魅力的な音になりますが、音程や音量、各音の音ムラなど演奏全体に支障が出ます。この相反する要素がリードの難しさであり魅力でもあります。
オーボエ奏者の多くは自分でリードを作ります。演奏がうまくいくかは吹き手50%、リード30%、楽器20%と言われておりリードにこだわる方も少なくありません。しかし、リードに大きく依存することは危険です。オーボエのリードメーキングは、オーボエの練習と同じくらいの時間と労力を必要とします。リード次第で演奏が格段に良くなった経験を持つと、なおさら「もっと良いリード」を追い求めてしまいます。リードは「のめりこまない程度のこだわり」程度に抑えることも大切です。
2.リードに使う素材について
・正式名
Arundo donax(アルンド・ドナ)(caneケーン)(reedリード)(bambooバンブー)(葦ashi)(藤fuzi)と呼ばれます。アルンド・ドナは太古の昔から日よけに使う「すだれ」の材料として用いられてきました。その中でも特別に良い素材や太く栽培されたものが楽器用になります。
・サイズ
全長は4~8mにもなり、節は10~30cm。オーボエ属は自然に生育しているケーン(直径9.5~15.0mm)を用います。ファゴット属やシングルリード用のケーン(直径22.0~35.0mm)は自然にここまで大きくなる事はなく、農家が畑で品種改良を重ねて栽培しています。
・栽培方法
株分け、根切りから6月頃栽培し二年目に枝を張ります。農作物同様大切に育てられますがある程度は放置しています。栽培場所は緩やかな成長が行える気候で適度な水分のあるさらっとした土で内陸よりも海の近くが良いとされています。日本人にとって葦の生育地は川べりや水気の多い所というイメージですが、実際はとうもろこし畑やサトウキビ畑のような環境で栽培しています。
・栽培場所
かつては、南フランスのvar(ヴァール)とalpes(アルプス)が最良とされ、中でもFrejus(フレージュ)地方の物が多く用いられていました。現在では、北緯、南緯共30-45°に位置するアフリカ地中海沿岸、トルコ、ハンガリー、中国(上海、南京)、カリフォルニア、アルゼンチンと世界中でケーンが取れています。日本では岡山や甲府といった果物の良く取れる地域が栽培に適しています。
・収穫期
2~3年目の10月の新月の深夜に収穫されます。これは虫がつかないためです。伐採後は2-4ヶ月間ピラミッド状または壁に立てかけ水分を下から徐々に抜きます。次に、枝や葉を取り除き、山の斜面などを利用して斜めに寝かせて、太陽光で3週間以上乾燥と紫外線による硬化を行います。その後、太陽光での乾燥を6~12ヶ月行い、屋内でさらに6~24ヶ月乾燥、熟成させます。
・加工
乾燥を終えたケーンは各節の部分を取り除いて10~30cmの筒に加工します。節の間の筒は根に近い筒ほど短く(10cm)太く、先端に近いほど長く(30cm)細くなります。加工後はそれぞれの楽器に振り分けます。
オーボエ(9.5~11.0mm)、オーボエダモーレ(10.5~11.5mm)、イングリッシュホル(12.5~14.0mm)、バスオーボエ(15.0mm)、バロックオーボエ(15.0~16.0mm)、ヘッケルフォーン(16.018.0mm)
・出荷
短くしたケーンはさらに天然乾燥され、伐採後から2年後に出荷されます。
・使用開始年数
ケーン購入後は3~5年寝かせてから用いるのがベストといわれています。ケーンは若い内に使うと変化が激しく、リードの性能が日々変わりやすくなります。そのかわり、弾力性が強いので大きい音が出しやすく、パワフルな演奏が出来ます。反対に古いケーンは変化が少なく、まろやかで魅力的な音色になります。その半面、弾力性が弱くて張りが弱くなります。
・保管方法
保管方法は早く使いたい場合は、軒先や部屋の中に吊るして乾燥させるのがベストです。紫外線と適度な風の流れがケーンの質を高めます。反対に何年か先に使いたい場合は、紙の箱に入れて生活している部屋の暗所に保管します。高温多湿の場所や金属缶は適していません。
・使用方法
使用直前に一週間ほどケーンを紫外線(蛍光灯でも可)に当てておくと表面が硬化してよいリードが出来ます。
3.リードの仕組み
・音の発信源
ダブルリードは圧力のある息を通過させることで、二枚のケーンが引き寄せられてくっつきます。くっつくと息は止まり、引き寄せた圧力がなくなるので二枚のケーンは元に戻ろうと開きます。これをチューニングAでは1秒間に442回繰り返しています。その反応を良くするためにリードの先端は0.03mmと薄く作られています。
・リードの特性
ケーンは水を含むことで柔らかい弾力が生まれます。それは導管と呼ばれるケーンの繊維の中の水の通り道に水が入り込むことで曲がりやすくなるからです。たとえば、パイプ状の金属は中が空洞のため曲がりにくいのですが、中の詰まった金属の棒は曲がりやすくなるのと同じ効果になります。ただし、水に長くつけておくと導管内が飽和状態(パンパンに張ります)になり硬くなります。そのため、ケーンを長時間水につけておくと加工しにくくなります。また、一般にケーンは乾燥するほど良いとされていますが、何事もしすぎはよくありません。一度干からびたケーンは水分を含みにくいのでリードは鳴りにくく甲高い音になってしまいます。また、急激な乾燥もケーンが変形するのでよくありません。
・リードと環境
リードは湿度、気温(温度)、気圧に左右されます。季節の変わり目や吹く場所が異なるとリードも変化します。湿度は高いほどリードは水分を含むため吹奏感が重くなり、ピッチは低くなります。楽器の温度が10度高いと、A=442hz付近のピッチだと約6hzも高くなります。寒い時期に吹き始めはピッチが低いのに、曲や練習の終わりごろはピッチが高すぎるなんて事がよくあります。高原など気圧の低い場所は温度、湿度の影響が大きくなります。地上よりも極端にリードが軽くなったり重くなったりします。
・リードの先端の開きと断面積が大きく作用します
音の発信はリードの先端の振動から始まります。そのため、先端の振動の具合が響きや音色に大きく関与します。先端が薄い(0.03mm)と、音色は明るく柔らかい振動から鳴り始めます。先端が厚い(0.04~0.05mm)と暗く硬い響きになります。響き(音色)を決定付ける要素は先端の形状や断面積が鍵となります。先端のカットが直角で、断面積が大きくなる切り方だと、音の出だしがクリアで大きな音に向いています。先端のカットは直角ですが、断面積の角が削れている(先端を#1000の耐水ペーパーで斜めにこすって角を取るなど)と弱い息でもスムーズに反応します。カッティングブロックとリードナイフを使って、先端を斜めにカットして直線に仕上げない方法(片面の先端中央がわずかに凹み、もう片面は曲線で凸になります)だと音の反応は鈍くなる代わりにスーパーppが出せソフトな音色が作れます。
・ピッチはケーンの大きさ(体積)が決め手
リードのピッチはケーン部分内側の体積で決まり、二枚のリードの開きが最もピッチを左右します。そのため、吹き始めの頃と終盤ではリードがつぶれてくるために、ピッチがどんどん高くなってしまう傾向にあります。もちろん、リードの全長や幅がケーンの体積に関わる要素に変わりはありません。そのため、ピッチを安定させるにはリードの先端が開きすぎない、開きに頼らないサイズのリードにすることです。
・ケーンの強度が音ムラやピッチに影響します
ケーンが元々薄く作られている場合(中央厚0.52~0.55mm)や表面が長くスクレープ(削る)されている、または深く掘られている場合はピッチが低くなります。逆に元の厚いケーン(中央厚0.60~0.65mm)や、スクレープが短いリードはピッチが高くなります。
・リードは倍音が命
オーボエのリードは多くの倍音を含んだ振動をしています。フルートは倍音がきれいに整っているため、澄んだ音に聞こえます。クラリネットは閉管楽器なので第7倍音まで奇数倍音が強く、音色は暗く聞こえます。バスーンや金管は沢山の倍音を持っているので豊かな響きを持っています。
・「クロー」って何?
リードを深く加えて「ギャー」というカラス(スケアクロー)の泣き声に似た音を発します。クローはリードのバランスチェックに優れた方法で、リードの振動に含まれている倍音の数や、各倍音の強さを知ることができます。一般にスクレープが短いリードは、倍音が少なめで、華やかで特定の倍音が強くなる傾向にあります。反対にスクレープが長いリードは倍音が豊かで暗い音色を持ち、高音までスムーズに出すことが出来ます
4.リード各部の名称(図)
・スクレープ:先端、サイドショルダー(肩)、山、根元
・ケーン(シェーパー):最大幅、平行面(スクレープ)、ライン、最小幅(根元)
・チューブ:全長、スタイル、テーパー、素材(金属)、アセンブリ(コルク、ゴム)
・糸
・ワイヤー
・ラップ(フィッシュスキン、リードラップ)
5.リードの種類
リードのタイプは削り方と使用しているチューブで呼び名が決まります。吹き手にとって良ければどのタイプでも良いのですが一つの目安になります。かつて、リードはショートスクレープとロングスクレープに大別されておりましたが現在では呼ばなくなっています。オーボエリードのスクレープ(表皮を削っている部分)はシェーパーの平行面の長さで決まります。よってリードはスタイル(削り方や寸法)で分類しています。
・インターナショナルリード
ロレー社がフレンチタイプのチューブとジャーマンタイプのチューブを融合させたインターナショナルチューブをメインに作り始めたことで、インターナショナルリードが完成しました。現在、フランスの各メーカーの多くが作るようになりましたケーンのサイズはヨーロピアンリードと同じでインターナショナルチューブを用いています(ロレー、リグータ、リゴティ、キアルギ2等)
・ヨーロピアンリード
かつてはジャーマンタイプとかショートと呼ばれていたスタイルで、ケーンの両サイドの平行面9~10mmで先端幅が広く根元が細い三角形に近い形状を持ちスクレープも平行面に合わせた削りはじめがU字形のリードです。チューブはジャーマンタイプのチューブを用います(JDR、ロレーdm、ムラタ、ジークラーなど基本設計はクロ
ッファー)
・フレンチリード
セミロングとも呼ばれており、先端幅と根元共に広めの大きなリードでスクレープも平行面に合わせた12~14mmの削りはじめがWまたはV字形のリードです。チューブはフレンチタイプのチューブを用いますがグロタン(ヌーロンテール)社に代表される「金属板を巻いて作る」古くからの方法がフレンチリードに適しています(グロタン、ロレーak、ピゾニー、マークチャトナウ、キアルギ1、シェラ等)
・アメリカンリード
ロングとも呼ばれ先端幅は細く根元は 太い寸胴形で、スクレープはサイドを残しケーン全体でW字形で凹凸の大きいリードです。元々、アメリカンリードはフレンチタイプの発展型でチューブはフレンチタイプを用います。中でも内径の大きいグロタンやロレーakが使われています。
・ウィンナリード
スクレープが8~9mm、中央は14~16mmと長いのが一般的です。ウィンナオーボエのリードの最大の特徴は舟型ケーンの段階で裏側を先端に向かって薄く加工するので表面の硬い部分を多く用いるリードになります。ウィンナオーボエの独特な音色はここから来ています。チューブはウィンナチューブ(37mm)を用いますが、差込口の固定は糸で巻く位置や厚みを変えることでピッチや音色を変えます。ただし、最近はコルクも用いられるようになりました。
第二章「完成リードについて」
1.完成リードの賢い買い方、選び方
・リードは生鮮食品です
完成リードはいつまでもプラスチックの筒に入っていると「干からびて」しまいます。リードメーカーは季節に応じて微妙に寸法や鳴りを変えています。乾燥時期に買ったリードは梅雨時には重くて吹けません。逆に高温多湿の時期に買ったリードは冬に使うと薄っぺらな音になってしまうでしょう。
・同じリードはありません
残念ながらプロ奏者でも同じリードを作ることは出来ません。そのため、そのリードの良い点を活かし、悪い点を隠し補正しながら演奏することを心がけています。ただし、ピッチ(442hz)や息の抵抗感は譲れない要素で出来るだけ同じリードを使うようにしています。
2.完成リードの準備と吹き方
・完成リードの取り出し
リードを購入したらすぐに開けてください。完成リードを入れているプラスチックケースはリードにとって長時間はよくありません。購入後は速やかにリードケースに移動してください。
・コルクを調整しよう
リードのコルク部分は新しいと硬く入りにくくなっています。楽器に差し込めないようだとコルクにコルクグリスを挿しはじめの5㎜位のコルクの部分だけグリスを塗ります。塗りすぎにご注意下さい。コルク全体にグリスを塗ると抜くときに滑って抜けなくなります。
・音が鳴るように準備しよう
完成リードは乾いているので、十分湿気を与えてから上下のケーンの合わせ目を修正し、先端の開きや根元の厚みを指で調節してから吹きます。
・リードには裏表があります
リードには裏表があります。リードは一枚のケーンを二つ折りにして作られているのでいずれかが直径の細い側になるので張りが強くなります。それを見越してリードは作られていますが、削り方でも振動が微妙に異なるリードになります。通常は振動しにくい側を上唇側にして吹きます。なぜなら、オーボエは下向きに吹くと上唇の方が下唇に比べて薄いためと考えられています。見分け方は先端の開きで見ます。指で先端の開きを徐々に狭くした時に曲線のラインが残り気味の側が厚いケーンです。もちろん、見た目には分からないぐらい均一のリードもあるので、そのときは実際に吹いて判断してください。
・削り方とアンブシュア
下唇の位置とサイドのスクレープは密接な関係があります。一般にサイドスクレープが長いほど下唇は深くリードをくわえます。中央の長いスクレープは噛み合せで決まります。上の歯と下の歯の噛み合せの差が大きいほど中央のスクレープは長くなります。反対に下の歯が上の歯よりも出ている場合は、スクレープの形は直線に近くなります。*この場合はアンブシュアの形で補うことが必要となります。
3.完成リードの使い方、保管方法
・リードを使い回そう!
完成リードは最低でも3本は使い回しましょう!出来れば6本から10本位を交互に吹くと良いでしょう。特に新しいリードは、毎日慣らすことで自分の吹き方に合ったリードに変化していきます。その回数は1回の時間に関わらず10~20回と言われています。10~20回以上吹くと、そのリードは好みのリードに変化し、その後は新品の頃よりも変化が少なくなっています。ただし、せっかく良くなったリードは、徐々にではありますが性能が落ちてくるので、出来るだけ短い時間で本番用のリードを育てるつもりで毎日慣らすように吹いてください。
・保管方法
リードは専用ケースにしまいます。最近は湿度調整機能(約60~75%)の付いたリードケースもありますが、すでに本番に使えそうなリードだけをしまうようにしてください。リードを育てるには湿度の変化も必要です。だいたい、30%前後の湿度差の繰り返しが良いとされています。湿度差が少ないとリードの変化は少なく30%以上の湿度差はリードの性能を落としてしまいます。例えば、良い例だと使用時ケーンの表面が65%だとリードケース内の保管は40%辺りが良いでしょう。これが 30%を切ると危険です。リードケースごとビニール袋に加湿商品(簡易型紙おしぼりが良いでしょう)と一緒に入れて保管しましょう。1本のリードを長時間吹き続けるとリードの湿度は100%に近づきます。そうすると保管する場所との湿度差が大きくなってしまいます。そのため、リードの寿命が短くなってしまうのです。
・マンドレルは魔法の棒!
マンドレルはチューブの形状を補正したり、糸巻きに用います。通常は必要とされていませんが、実は完成リードにマンドレルを差し込むだけでリードの性能は良くなります。これはチューブの内径のゴミを取り除くだけでなく糸が締め付けるのでチューブがわずかにつぶれてしまうのをチューブの内側から補正するからです。残念ながら全てのチューブメーカーでマンドレルを販売しているわけではないので、チューブによってはできるだけサイズに合ったマンドレルを用いてください。
4.完成リードの掃除
・毎日の掃除 新しいリードはしまう前に、水の中でリードのケーン部分を震わして引き上げたら水をよく切ってリードケースにしまいます。半月から1ヶ月使用したら、小ハネでリードの中を掃除します。掃除後は薄めた中性洗剤を深さ8cm以上コップに入れてチューブからリードを漬けて1分ほどコップごとゆっくり回し、その後リードをすすいでください。リードは古くなると雑菌の温床になるので口内炎などの原因になります。
・小ハネの使い方 小ハネの先端部分1cmほどをハサミで三角に尖らせます。次に小ハネの芯を持って根元の産毛をむしり取ります。滑って取れない場合はハサミで切り落とします。最後に毛をさかさまに曲げるように広げます。短い小ハネは芯に爪楊枝を糸で解けないように縛り付けておくと使いやすくなります。使い方は一杯に水を入れたコップにリードのケーンの部分全部を浸し、チューブの底から小ハネを入れピストン運動で汚れを水の中に出します。その後、きれいな水で洗い流します。チューブの底から息を強く吹き込み、水を飛ばしてからしまってください。
5.完成リードの手直し
・新しいリードが鳴らない 多くはリードの上下がズレたり、中にゴミが詰まったり、先端の欠けやケーン部分の割れが主な原因です。リードのズレはプラークを挟んで指でズレと反対方向にひねります。中のゴミは小ハネで掃除します。先端の欠けは、面積が大きいと修復は出来ませんが、サイドが少し折れ曲がった程度なら、その部分をハサミで取り除けば外観は最悪で音量がでませんが、とりあえず音は出ます。縦に入った割れは致命傷なので瞬間接着剤で止まりはしますが、残念ながらあきらめるしかありません。
・古いリードの場合 古いリードは弾力性が失われて先端の開きがすぐに閉じてしまいます。ワイヤーを巻く、太いワイヤーに切り替える、フィッシュスキンやラップで根元を固めるなどで対処してください。いずれにしてもピッチは高くなり、大きな音が出なくなります。また、スクレープ部分の汚れもひどくなるので、良く切れるナイフやカッターナイフをスクレープ面に直角に当てて軽く擦り落としてください。
・リードが軽くなった リードが軽くなる原因は上下のケーンがずれてきた、振動により糸が緩んできたケーンの組織(繊維)が弱くなってきたことなどが原因です。その原因にあった対処を行いましょう!
・リードが重くなった 長期間吹かなかったリードはならなくなります。その場合は十分湿らせてからプラークを挟んで、リードのズレや膨らみをゆっくり指で整形します。その後、鳴らしにくいのを我慢して少し吹き込んでください。じきに響きが出てきます。いきなり削ったり、掃除したりしないで下さい。
6.完成リードの最後(リード作りの第一歩)
・大活躍リードはサンプル リードは水物です。たまたま良いリードが見つかったり、偶然良いリードが出来たりします。そのようなリードはサンプルで持っておくと、新しいリードとの比較に使えたり良いリードを作るのに役立ちます。
・リード作りの一歩 どうせ捨てるなら分解してみませんか?糸の巻き方、ケーンの削り方、ゴミに溜まっているか等新しい発見がでてきます。丁寧に分解したら試しに組み直してみましょう!これが、リード作りの第一歩になります。
第三章「オ-ボエリードの作り方」
1.リード作りの基本
リードの良し悪しは素材の質や加工、組み合わせ40%、糸巻き30%、削り方30%で決まるとされています。削り方が上手なだけでは良いリードは作れません。リードは一度に3~6本位作るのが良いでしょう!一度に大量に作ると集中力が途切れてしまいます。ただし、メーキングマシーンで作る場合は10~20本でも可能です。リード作りは時間に追われると良いリードは出来ないので余裕を持って作りましょう!焦ると失敗します。また、明るい場所で作業を、そして使い慣れた工具を用いることも良いリードを作る秘訣です。リードの製作時間は初級者で1本1時間、上級者で15~20分位です。一気に完成まで仕上げるのも一つの方法ですが何日かに分けて仕上げるのも良いでしょうが。リードは環境(気温、湿度、気圧)で変化するので雨の日は重く乾燥時は軽くなります。また、季節の変わり目は環境が日々変化するのでリード作りは難しくなります。
リードは音色に大きな影響を及ぼしますが、音色を求めれば求めるほど性能は悪くなります。まずはバランスの良いリード作りを目指しましょう!リード作りは日々の研究と努力が必要ですが工具の準備を怠らないようにしましょう。手に馴染む工具を用いる事とナイフは良く切れるように研いでおきましょう!経験は数値に勝ります。しかし、数値が経験を生みます。リードは細かく図り、数値を管理研究すればおのずと経験豊富になります。「感」だけに頼ったり他の人のリードの真似はやめましょう!回りの意見はあくまで参考に留めることをお勧めします。しかしながら、リード作りに不可欠なのが情報収集で上級者ほど常にアンテナを張り巡らせています。オーボエ奏者が集まるとすぐにリード談義になるのはこのためです。最後にリードは吹くことで良くなります。舌の表面は細かいやすりと同じでリードの先端が勝手に仕上がります
2.リードの種類とサイズ
リード(完成リード)は楽器の設計や時代の流れ(流行)でサイズや削り方が少しずつ変わっています。現在、用いられているリードは国や地域、音色や吹奏感の好みで4種類に分類されます。それに合わせて、材料となるケーンやチューブも作られています。以下はよく用いられるタイプのリードです。下記は代表例(単位mm)
・タイプ (全長 厚さ 幅 根元) チューブ 長さ スクレープ
インターナショナルタイプ 72 0.60 7.2 3.3 インターナショナル 47 11
ジャーマンタイプ 71 0.58 7.3 3.0 ジャーマン 46 10
アメリカンタイプ 71 0.62 7.0 3.4 フレンチ 46 23
フレンチタイプ 73 0.62 7.4 3.3 フレンチ 47 12
・ケーンの表示
直径(丸材の直径で細いほどリードの開きは大きくなります)
A( 9.5前後)オーボエミュゼット、オーボエ用でジャーマンタイプ向き
B(10.0前後)オーボエ用でインターナショナル、ジャーマンタイプ向き
C(10.5前後)オーボエ用でフレンチ、アメリカンタイプ向き
・ケーンの厚さ (中央厚) (サイド厚)
オーボエ S ソフトタイプ (0.55~0.58) (0.42~0.50)
M ミディアム (0.58~0.62) (0.45~0.54)
H ハ-ド (0.62~0.65) (0.50~0.57)
ウインナOB *折り目 (0.50~0.55) (0.40~0.45)
*根元 (0.65~0.70) 根元と折り目で厚さが異なります
・舟型ケーンのサイズ (最大幅) (平行部) (最小幅)
オーボエ 細身 (6.7~7.0)( 8~ 9) (3.3~3.6)
標準 (7.0~7.3)( 9~10) (3.0~3.3)
太い (7.3~7.5)(10~11) (2.9~3.1)
ウインナOB (6.7~7.5)( 8~11) (3.3~3.6)
3.リードに用いる材料の選択概要
ケーンについて ・ケーンの選択 丸材、半かまぼこ型ケーンから作るメリットは、自分の好みを最大限活かせるリード作りが出来
ます。丸材の直径はリードの開きに影響し、直径Aだと開きは大きめBは普通、Cだと少なくなります。乾燥及び保存期間は2~5年間熟成させてから用います。若いと変化が大きく、古いと弾力性が失われ硬くなります。保存方法は紙箱や木箱に入れて自然乾燥させます。ケーンの選び方は経験であったり、測定器で選択しますが、繊維(太さ、間隔、堅さ)や表面(色、艶)内側及び肉厚、重量を考慮します。
・丸材 元々の素材が分かりやすく自由に加工することが出来、価格的にもリーズナブルですが、カマボコ型ケーンや舟型ケーンにするまでに時間と手間を要します。また、丸材は見た目だけだと判断しにくく、全ての丸材から好みのリードが作れる保証はないので必ずしもリーズナブルとはいえません。丸材から作るにはガウジングマシーンをはじめ沢山の工具が必要です。
・半カマボコ型ケーン 丸材を3つに加工し、プレガウジングを通した材料で、最近は丸材よりもカットした外観や裏側の繊維の並びや色などケーンの良し悪しが見やすいため、良いリードが出来る確立が高いので人気です。半カマボコ型ケーンから作るにはガウジングマシーン他工具が必要です。
・カマボコ型ケーン AS、BS、BM、CM、CHの中からサイズを選択しますが基本はBです。ケーンの両サイドは中央に比べ約0.10㎜薄くなっていて、0.10㎜よりも差が少ないと張りが強く、差が大きいと先端の開きが少なく落ち着いた音色になりますたとえば、中央が0.58㎜だとサイドは0.48㎜が基本になります。カマボコ型ケーンから作るにはシェーパーが必要です。
・舟型ケーン 一番細い部分がフレンチチューブ用(太め)とジャーマンチューブ用(細め)に分かれ、先端の幅はピッチに関係し、細い程ピッチは高く太い程反対になります。 ラインの形は並行が長いほど音色は暗く、なだらかに細身になるケーンは柔らかい音色、直線的な三角形に似てくると硬くクリアな音色になります。舟型ケーンには中央から折り曲げられた「折り曲げ式」とカマボコ型ケーンと同じ「ストレート型」があります。これは折り曲げ式シェーパーかストレート式シェーパーを用いたかで違います。精度は「折り曲げ式」の方が二枚の合わせ目がしっかりします。「ストレート式」はガウジングマシーンで修正が効ききます。
・プロファイルド舟型ケーン 初心者用に用いられるケーン。舟型ケーンの表面をプロファイルドマシンで仕上げてからチューブに巻きつける方法で、とても簡単にリードを作ることができます。
材料の見分け方 材料の見分け方は今まで秘密にされてきました。理由はお分かりのことと思います。たとえ、自分の師匠でも本当のところは教えてくれないでしょう。リード作りに於いて、ケーンの質はリードメーキングの腕だけではどうしようもないからです。ある著名な演奏家は「たとえ、弟子でもケーンの選び方だけは教えない」とおっしゃっています。なぜなら、自分は忙しくて楽器店になかなか行けないのに学生はすぐに行って根こそぎ買ってしまうからだそうです。しかし、材料は使用する方の好みや目的でけっこう好き嫌いがあり、材料の好みも十人十色です。また、良いとされる材料がアマチュアの方に向いているとは限りません。かえってコントロールの難しいリードが出来たりします。以下は色々な基準から選んで頂けるように説明しています。自分に合った材料を選んでください。自分に合った材料の選び方は、まず、傾向の異なるいくつかの材料を3~5種類ほど買って試してみましょう。糸の色を変えたり、ケーンに印をつけても良いでしょう。それで、作りやすかった、吹きやすかったケーンが相性の良い材料です。
・色 柔らかい順に白色、緑色、飴色、茶色。こげ茶色が一番硬いケーンになります。白色はガウジングを厚めに加工して用います。特にサイドは厚めで用いないと腰のない(張りのない)リードに仕上がります。緑色は繊維が太く、紫外線に当たる時間が足りなかった材料なので、直射日光に何日か当てておくと茶色に変化します。ただし、夏の直射日光は避けてください。飴色は一般的で一番リードが作りやすい色です。茶色はやや硬めで明るい伸びのある音になります。こげ茶色は保管年数が長いので音色は華やかで上品な音色になります。ただし、張りが弱くなっていてリードの先端の開きが閉じやすいので、サイドを削り過ぎないよう注意が必要です。
・模様 「模様なし」は素直な鳴り、「模様あり」は粘りがあるのでリードに抵抗感が生まれる素材です。オーボエ奏者の多くが模様を嫌う傾向にあります。ところが、プロ奏者の多くが模様のあるケーンを多用しています。模様にはいくつかの傾向があります。茶色で「繊維のような筋」が木目のように入っているケーンは音色重視のリード作りには打って付けで見た目とは大きく異なる美しい音色のリードに仕上がります。ただし、バクテリアの繁殖が活発なので、水につけっぱなしにするとカビが発生するのでご注意を!飴色で全体に「まだら模様」のあるケーンは、ケーンの表面に適度な粘りがあり、リードが暴れるのを防ぐ格好の素材です。多くプロ奏者が好むケーンです。黒色い(ブラックケーン)は黒いマジックで書いたような模様のケーンです。10人中9人が避けるリードですが黒い部分は特に柔らかく、それ以外はそこそこ硬いので抵抗感は弱いのに柔らかい音色でリードが弱らない音色の作りやすいケーンです。
・艶(しわ) 「艶なし、表面が凸凹」は柔らかく、すぐに鳴るリードが作れます。リード作り初心者には最適です。先端の薄い部分が上手に出来なくても音が出ます。「艶なし、表面はなだらか」は暴れないリードで落ち着きのある吹きやすいリードが出来ます。「艶あり、表面がなだらか」は性能の良いリードが出来ますが、仕上げるまでに時間がかかります。一般に艶は美しいほど良いリードが作れるとされてきました。ところが最近は芯のない音が好まれていてフルートやクラリネットでも「もやもや」した存在のない音が広まっています。これらの音に対抗するには艶がなくて表面が凸凹のケーンの方がアンサンブルに向いているという皮肉なことになっています。一般に艶があるケーンほど表皮が厚く硬くなっています。「艶あり」が必ずしも良いケーンとはならない理由がここにあります。
・繊維と道灌(どうかん) 一般に繊維と道灌(水の通り道)は細いほど繊細な音が出せると言われています。太いと力強い音が出ますが太すぎると口にケーンの硬さを感じ長時間吹き続けるとリードに含まれる水分が飽和状態に達し水笛のように「ブクブク」した音になります。色分けすると一般に茶色や緑色のケーンは繊維が太く、白色ケーンは細いものが多いようです。繊維は土壌の水分が大きく作用されていて、河川沿いの水はけの良い場所で育ったケーンは繊維が太くなります。そのため、良いケーンほど人の管理の行き届いた農場で栽培されています。
・重さ(繊維の層) ケーンは重量が軽いとリードは作りやすく鳴りやすい反面、持ちが悪くなります。重いほうが抵抗感のあるリードが出来やすいが製作時間がかかります。重量で判断する場合は乾燥していないケーンも重くなるので、ケーンを触ったときに表面が湿っている感触のケーンは湿気を帯びていると考えて判断してください。
・乾燥 ケーンを乾燥、熟成させるには冷暗所でわずかに空気が流れ、湿度50%前後の場所が最良です。紫外線の強い場所や缶容器に保管してはいけません。強い紫外線は繊維を硬化させ破壊します。ケーンを使用する直前に一週間ほど紫外線(蛍光灯でもOK)に当てると適度に硬い良いリードになります。ケーンの乾燥は出荷後3~5年がベストと言われています。3年以内だと弾力性に富み表現力豊かなリードが作れる半面、変化が早く気候に左右されやすくなります。また、5年を過ぎるとケーンが硬くなり融通が効きにくくなりますが美しい音が出せます。残念ながら寿命は短くなります。
・質感 触った感じの印象なので難しいのですが「しっとり感、跳ね返るような感じ、もちっとしたさわり心地」等、最終的にはそれぞれの方が持つ感触で決めます。
チューブは楽器やリードのスタイルに合わせて選択します。
今までに世に出たチューブメーカーは50メーカーを超え100種類以上のサイズがあります。古くはフレンチはグロタンかロレー、ジャーマンはクロッファーの3メーカー位でした。チューブはプロアマ問わず多くの演奏家を惑わしている素材で、楽器の設計が時代と流行に合わせて変化するように、チューブもその楽器に合わせて変わってきます。チューブはあくまで二次的な要素が強くチューブだけが一人歩きすることはありません。もし、チューブに進化があるとすれば技術的な問題で出来なかったことが最近のハイテクで出来るようになったことでしょうか。チューブの作り方などは昔に比べ大きく変わりました。反対に悪いこともあります。例えばコルク。近年、良質のコルクが減ってチューブに用いられるコルクも昔に比べ悪くなりました。コルクもチューブの一部です。金属も割れにくいムラの少ない均一に出来るので1本1本の製品ムラは極端に少なくなりましたが、同じ種類のチューブの中でもこのチューブだけは特別良いということがなくなりました。とはいえ、リードにとってなくてはならない素材です。以下の項目を参考に自分と楽器と相性の良いチューブを探してください。
・設計 チューブはあくまで二次的な素材で、新しいオーボエの設計に合ったチューブに変化しています。特に2000年前後を境にチューブの設計は大きく変わっています。1997~2000年にオーボエの設計がインターナショナル化してきました。そして、フランスのオーボエが主流となりドイツ管は少数派になっています。フランスの楽器は内径の一番細い部分(リードの差込口の底)が4.0㎜に統一されてきました。ドイツ菅は4.05~4.1㎜と太く息の量と息の力が必要な楽器です。1997年以前はフランス製オーボエもドイツ管同様に4.0㎜よりも大きかったのですが、現在は細身になっています。ドイツ管に近い太さの楽器は日本製メーカーぐらいです。チューブのサイズはオーボエの内径が大変重要で、オーボエが細くなるとチューブも細身になります。さもないと大きな音はさほど問題は生じませんが、ピアノになるとチューブの中の圧力が低くなってGやCをディミネンドするとピッチが「ぶら下がってくる」、高音域が「うわずってくる」などの症状が出ます。現在作られているチューブの内径はインターナショナルチューブが4.6~4.7㎜、ドイツチューブが4.5㎜、フレンチチューブが4.7~4.8㎜です。チューブはオーボエの最小内径よりも大きく作られています。なぜなら、チューブの内壁付近は壁に息がぶつかって勢いが弱くなってしまうので、一回り大きいサイズに作らないと吹き手の負担が大きくなるからです。なので、内径が大きいと息が沢山入るので楽に吹くことが出来ます。その代わり、ピッチやダイナミクス、発音が難しくなります。とはいえ太いチューブほどオールマイティなので無難なリードが作れます。反対に細すぎるチューブは吹き手と出てくる音双方が苦しく、高音域が「ぶら下がったり」大きな音が出なかったりします。
・材質 ほとんどはブラス(真鍮)製で金属が柔らかく音もソフトで適度な息の通りが特徴です。チューブは各国の基準や製造方法の違いによってブラスの質が異なります。ブラスは合金なので金属の配合が各国で異なります。また、チューブの製造方法でも削るのに適した粘りのないブラスと曲げるのに適した粘りのあるブラスでは音が全く異なります。ニッケルシルバーは音抜けが良く華やかな音色になります。最近の流行では、ニッケルシルバーは少数派ですが、オーボエ本来の音の伸びや安定感はブラスを上回っています。両方の材質を作っているメーカーの発表によると設計は同じです。ただし、金属の性質(スプリングキック)により、わずかながらニッケルシルバーの方が大きめになるようです。その他の金属では銀(900、925等)や金(14金、18金等)のチューブがありますが金属が厚く、吹奏感が重く、変形しやすくなります。また、いずれも高価なので素材としては難しいようです。
・チューブの厚み チューブの素材は0.3~0.35㎜で作られています。厚みは薄いほど良く振動するので鳴らしやすいリードになります。また、絞りで作られたものや先端を処理したチューブは厚さムラが出来ます。これが良い響きや個性を生みます。厚めのチューブは響きが硬くなり音色が暗くなります。チューブは厚みによりつぶれる強度が変わってきます。ブラスは4kg前後、ニッケルシルバーは6kgぐらいで変形します。糸を巻く力は平均で1.2~1.5kgなので問題はありませんが、リードの抜き差しで真っすぐに楽器のリード差込口に出し入れしないと徐々に曲がってしまうのでご注意下さい。特に中国製品やドイツ製品は金属が柔らかいので、何回も再利用しているとチューブの先端部分が糸巻きの力でつぶれてくるのでマンドレルで補正してください。
・チューブのメッキ ブラスは酸化が早く表面が荒れてきます。その変化が吹奏感(息の抵抗感)や音の反応に影響します。同じチューブで吹奏感や音の効率を変えるのにメッキが適しています。金メッキは音色が柔らかく音のつながりがスムーズでパワフルな音になります。銀メッキは柔らかく表面もざらつきやすいので重厚な音色がしますが、吹奏感は重く音の効率は悪くなるので黒く変色することも合わせてお勧めできません。
・チューブの作り方 チューブは製造方法で性能が随分変わります。「ロウ付け製法(板を丸める)」のチューブは響きに優れ音抜けも良くなります。チューブ内を覗くと継ぎ目線が見えます。代表的なメーカーはグロタンやピゾニーですが、職人の技術を要するので減少の傾向にあります。「シームレス製法(絞り製法)」のチューブは、ロウ付けではなく「絞り製法」で継ぎ目のないパイプを引っ張って伸ばしながら細く成型する方法で、最近はチューブの多くがこの方式で作られています。「絞り製法」のチューブは、クロッファーを代表とするドイツのチューブメーカーの多くが採用していて、パイプの中にマンドレル状の棒を差し込み、機械にかけて表面をへらで絞りながら細く仕上げていく方法。継ぎ目はなく絞りムラがあるので独特な音色がします。昔のチューブは精度が出ないのでお気に入りのチューブを集めるのに苦労しましたが、今では高い精度のチューブになっています。「削り出し製法」のチューブは名前の通り金属の棒からドリルで削ってチューブを作る方法で製品ムラがなく安定しています。ただし、金属の硬さムラなどもないため長期にわたって使用することで個性が出てきます。日本製や最新の機械を持っているメーカーが採用しています。
・チューブの先端の形状 チューブの先端は楕円になっています。楕円が大きいほど二枚のリードが振動しやすくなります。そして、チューブのテーパーが急になるので高音域を楽に鳴らすことができます。逆に楕円が少なく円に近いほどリードは重くなり、高音域は低めになります。一般にチューブの先端は、金属の厚みが邪魔にならないように金属の角を削ってあります。この断面がそのままだと、中音のDやHighAの響きが異質になります。
・先端溝(糸の緩み止め) チューブの先端部分にはケーンが「すっぽ抜け」ないようにチューブの糸を巻く部分に溝が切ってあります。斜め3本はグロタンタイプでフレンチ、インターナショナルチューブに多く、輪が6本、7本はピゾニー製品で、5本はアメリカ製が多いようです。ドイツチューブは絞った歪やギザで糸の緩みを防ぎます。特に金メッキはケーンが「スッポ抜け」てしまうので、糸で縛る部分を#180位の荒い耐水ペーパーで荒らします。指が引っかかるくらい必要です。(その部分のメッキは残念ながら剥げてしまいます)
・チューブのコルク 弾力性のあるコルクはリードを楽器につなげる役目をしますが、同時にリードの響きを止めてしまいます。そのため、なるべくリードは軽く抜き差しが出来るように調整してください。コルクがきついとリードは鳴りません。新しいリードでコルクがきつい場合は耐水ペーパーで細くして軽く抜き差しできるようにします。また、楽器に差し込んだ時に見える部分を取ると素直で吹き心地は軽くなります。古くなったチューブはコルクの部分が弾力性を失い楽器の抜き差しも緩くなりますその場合はクリーニングペーパーや食品ラップをコルクの上に巻いて対処します。最近は天然コルクの代わりにコルクを粉砕しゴム系接着剤で固めたゴムコルクやOリング(ゴム輪)を用いるチューブがあります。ゴムコルクタイプは振動を大きく止めるのでリードの抜き差しが軽くなるよう細めに作ってあります。もし、息漏れするようでしたら硬めのグリスを付けて解消してください。Oリングタイプはコルクほど振動を妨げないのでフレキシブルでリードの性能を飛躍的に発揮させることが出来ます。ただし、リードが敏感で気候に大きく左右されます。このタイプはリングがゴムなので長持ちします。ただし、糸巻きによる負荷や振動はコルクチューブと同じでチューブの先端が割れてきます。
・チューブの加工 チューブは何度も使用すると微妙に変形するのでマンドレルで整形します。変形の原因はリードの振動や糸巻きの力によることが理由ですが、リードをマンドレルに差し込んで整形してから使う奏者もいます。チューブの加工は先端の楕円と出口のエッジを変えることで特性を変えることが出来ます。先端は丸に近いほど吹奏感は重く、響きが硬く華やかになります。反対に楕円になるほど自然で豊かなリード音の強い音になります。出口のエッジは音の明暗に影響しエッジが尖っているほど暗い音色になります。通常は少しエッジが削られているので明るめになります。
・チューブと糸巻きの関係 チューブとリードの開きの関係は糸の巻き方で調節しますが、フランスチューブは糸を巻く位置でリードの開きは変わりませんが、ジャーマンチューブは先端の絞り部分の巻き方で開きを調節します。
チューブメーカーについて チューブメーカーは数多くありますが、下請けでチューブを作っているメーカーや「金物の新潟三条市」のように地域で作っているところもあります。主な製作メーカー(地域)はシェルビル(フランス)、ピゾニー、キアルジ(イタリア)、フランククロッファー、ゲルツィオ(ドイツ)、エルクハート、マークチャトナウ(アメリカ)、ムラタ、KGE他(アジア)で生産しています。それ以外は少量ロットの会社で一代限りのメーカーもあり手に入らなくなったブランドもあります。以下は今までに出回ったメーカー、品番のチューブも載せてあります製造方法や設計が似ているものはグループにしてあります。参考にしてください。
種類 :B(ブラス)N(ニッケルシルバー)GP(金メッキ)、S(銀製)
スタイル :I(インターナショナル)、F(フレンチ)、G(ジャーマン)
製造中止 :×
メーカー名 種類 材質 国 製造 スタイル 特 徴
グロタン B N 仏 巻き F 最も内径が大きい
グロタン Wポイント&GP B 仏 絞り F 音の効率が良い
ロレー B N 仏 絞り I チューブの基本ベース
ロレー dm B 仏 絞り G クロッファータイプ
ロレー ak N 仏 巻き F 最も内径が大きい
リグータ GP B 仏 絞り I リグータ用
リゴティ B N 仏 絞り I ロレータイプ
ピゾニー B N 伊 巻き F 6線イタリアチューブの基本
ピゾニー DX B N 伊 巻き F 斜線グロタン似。
キアルギ 1、2 B 伊 削り F ○リング3連式
キアルギ B 伊 絞り I コルク(46.5mmあり)
パトリコラ B 伊 巻き F 斜線
ラウビン B N 米 巻き F 6線と斜線あり
CA N 米 巻き F 鏡面仕上げ
シェラ B N 米 絞り F ロレータイプ
ゲルツィオ D10、D12 B 独 絞り G クロッファータイプ、各種あり
ジークラー D10 B 独 絞り G ゲルツィオと同メーカー
ウンチ B 独 絞り I フランク製、ゲルツィオ製
ワルター E6、E8 B 独 削り G ヘビータイプ
ワルター D6 B 独 削り I ロレータイプ
マークチャトナウ S&E B 米 削り F ○リング2連式
ラウビン B N 米 絞り F 合成コルク
ムラタ B 日 削り G クロッファータイプ
JDR B 日 削り G クロッファータイプ
フォックス B 米 巻き F 6線と7線あり
マリゴ B 仏 絞り I ロレータイプ
ハワース B 英 巻き F グロタン似
ヘンツェ HF B 独 絞り I
メッケル P8 B 独 絞り G
バンドレン B 仏 巻き F グロタン似
ヴィクトリア B 仏 巻き F
ボナッツァ B 伊 絞り F 5線(ビニール式)と斜線あり
マルカ B 仏 巻き F 6線
フレージュ B 仏 巻き F 6線
アクタス B 日 削り G ムラタ製
タクミ B 日 削り I 先端円形あり
KGE B 中 絞り F
デュパン B ルクセン 絞り F
×ジョスプレ B 仏 巻き F
×コーレルト B 独 巻き F グロタン製
×グロタン オランダ B 仏 巻き F ロレーOB用42mm
×ロレー B N 仏 巻き F グロタンと同じ
×ロレー m N 仏 巻き F dm、akの中間
×マダムギース B 仏 巻き F 6線
×ジョーンズ B 米 巻き F 7線
×プレスティニ B 伊 巻き F 斜線。イタリアチューブの祖
×オルガ B N 伊 巻き F 斜線。プレスティニの後継者
×クリストリーブ B 米 巻き F 7線
×クロッファーD10~24 B 独 絞り G ドイツチューブの基本
×ミグマ D10、D12 B 独 絞り G クロッファー後継モデル
×ヘッケル 44mm B 独 絞り G クロッファー製
×シュプリンガーD10、D12 B 独 絞り G ジャーマンサイズ
×ザッセンベルグ B 独 絞り G ジャーマンタイプの基本
×ハウク B 独 絞り G
×ルオック B 独 絞り G
×ジョスカン B 米 巻き F
×ホワイトスター B 米 絞り F 合成コルクあり
×ラリリー B 米 絞り F 合成コルクあり
×ロンディーノ B 米 巻き F 7線
×ピュヒナー B 独 絞り G クロッファー製
×へローエ B 独 絞り G 柔らかい
×ソノーラ B 独 絞り G クロッファー製
×ツジ S 日 削り G 銀製
×ヤマシタ YK S 日 削り G 銀製
×ナガマツ S 日 削り I 銀製
×カラムス B 日 削り G ムラタ前モデル名
×上海 B 中 巻き F
4.リード工具、素材(ケーンを除く)とその使い方
リード工具は愛用品を使ってください。新しい工具は手に馴染ませてからデビューさせましょう。リード作りでは細かな箇所を計測する余裕がありません。慣れ親しんだ工具であれば「感」で十分精度が出ますリード工具は安全な使い方と保管&メンテナンスを心がけてください。特に刃物類は危険なので、怪我をしないように安全に作業してください。工具はリードの仕上がりに大きく影響します。たとえば、切れ味の鋭い鋭角なカッターナイフとリードナイフではリードの性質が変わり、前者は硬く明るい音色で後者は落ち着いた音になります。
・リード製作機械&工具(@舟型ケーンに必要な物)
@水入れ&水 :用途に合わせた大きさを用意します
@リード専用ナイフ :リード製作に全般に使用します
@プラーク :二枚のリードの間に挟んで削りやすくするための下敷き
@リードカッター :リードの長さを切りそろえるのに用います
@耐水ペーパー :番号が大きいほど目が細かく用途別に用います
@ペンチ :ワイヤーを巻くのに使用します
ケーンスプリッター :丸材を三つに均等に割る工具です
プレガウジングマシン :半カマボコ型ケーンの幅や厚みを揃える工具です
ガウジングマシン :ケーンの長さを揃え、カマボコ型ケーンに加工します
イーゼル :ケーンを二つ折りにする際の台です
スクレーパー :カマボコ型ケーンの内側を削って厚みを微調整します
シェーパー :カマボコ型ケーンを舟型ケーンの形に整えます
メーキングマシン :リードのスクレープ部分を削ります
砥石 :ナイフの研ぎに使用します
カッターナイフ :ケーンの下準備や糸やリードの先端のカットに用います
はさみ :糸やリードの先端のカットに用います
カッティングブロック :リードの先端のカットに用いる台(まな板)
ライター :ケーンを暖めたり、ラップを固定するのに用います
糸掛け(机の脚) :糸巻きの際に糸の端しを固定します
ハンドホルダー :糸巻きの際に糸を持ちやすくします
リードレギュレーター :糸巻き時のケーンの仮止めに使用します
マンドレル :チューブの整形や糸巻きの際に用います
・計測器には丸材用、ケーン用、完成リード用、硬度計があります。リード作りは寸法も重要でカマボコ型&舟型 ケーンは中央とサイド、完成リードはスクレープの先端、中央、根元及びそれらのサイドを計測します。
@定規(ものさし) :リードのサイズを測ります
丸材キャリパー :丸材の直径を計ります。ノギスでも可能
ハンドキャリパー :カマボコ型ケーンや舟型ケーンの厚さを測ります
完成リードキャリパー :リードの削っている部分をリードを壊さないで計ります
硬度計 :ケーンの硬さを計ります
計量計り :糸巻きの際にペットボトルと紐で作ります
バランス専用プラーク :ケーンの削り具合のバランスを見ます(左右均一)
・リード製作素材
@ケーン :舟型の状態に加工してから使います
@チューブ :ケーンを巻きつける土台で、使い回しが出来ます
@糸 :仮止めやチューブにケーンを巻きつけるのに用います
@ラッカー、マニキュア :糸尻のほつれや糸の隙間からの息漏れを防止します
@コルクグリス :チューブがきつくて楽器に入らないときに塗ります
ワイヤー :ケーンの開き調整や整形に用います
瞬間接着剤 :糸尻のほつれを防ぎます
リードラップ :ケーンのあわせ目からの息漏れを防ぎます
ビーズワックス :絹糸にしみこませて用います
丸材からカマボコ型ケーンにするまでの工具及び囲う手順
・ケーンスプリッター 丸材を3つに割る工具で丸材に先端部分を差して向きを考えながら木の台に叩くように落とします。
・プレガウジングマシン ケーンの幅を整え、ガウジングマシンの刃持ちを良くし仕上がり寸法を正確にする機械で、ケーンを台に置いて押し棒で刃の下をくぐるように押し出します。
・ガウジングマシン 丸材の内側を丸く削ってカマボコ型ケーンに加工する機能と、ケーンの長さを揃えるギロチンが付いています。使い方はギロチンで切り揃えたケーンをベッドに固定してハンドルを前後に10~20回動かして徐々に好みの寸法に薄く削ります。ただし、ケーンの直径がマシンのベッドよりも太いと薄く、細いと厚く仕上がる傾向にあります。この傾向はマシンのベッドよりも乗せたケーンの幅が広いと極端に発生します。サイド厚は刃の形状で決まります。
カマボコ型ケーンから舟型ケーンへ加工方法及び使用工具
・イーゼル ケーンを二つ折りにする工具でケーンを乗せてその溝をガイドにカッターナイフを使って完全に切れないように加減して刻みます。
・シェーパー カマボコ型を舟型に加工する工具でシェーピングマシンと折り込み式があります。シェーピングマシンはカマボコ型ケーンをセットして刃物を動かせば舟型ケーンが簡単に出来ます。折り込み式は中央に折り込み線を入れたカマボコ型ケーンを二つに折り曲げ、シェーパーに挟みロックし、カッターかカミソリで形に沿って舟の形に切ります。シェーパーは幅、並行面の長さ、カーブの形を考慮して選びます。幅はピッチに関係し、狭いとピッチは全体に高く高音域が出しやすく、広いとピッチは低めで低音域が豊かな響きになります。並行面は長いほど響きが豊かになります。カーブの形は曲線的であるほど柔らかい響きで、並行面から曲線に変わる所がはっきりしていると華やかで際立った音色になり、自然なラインだとおとなしい響きで柔軟性を持っています。
シェーパーの使い方 ハンドシェーパーで舟型ケーンを作るには大きいカッターナイフを使用します。肉厚で重いリードナイフは、シェーパーとの接触面が分からないので不向きです。切り出しナイフは、両刃で平面である保証が全くないので一番使えません。カッターナイフは両面ですがレーザー仕上げなので刃の面が平らなので信用できます。使い方は、カッターをシェーパーの面に寝かせるように、シェーパーに対して斜めに当てて、接触面積を大きくそして刃を進行方向に動かす以外は、二次元的に傾かないように3~4回動かします。その後、折り目に向かって刃を1~2回動かして仕上げます。何度も行うとケーンは細くなっていきます。注意することは持ち方です。(右手で刃を持つ場合)両腕の脇を締めて、肘を体につけ固定します。特にシェーパーを持つ左手は、手首までしっかり体に付けます。そのため、右手はシェーパーまで歩み寄った形で行うので作業は体の中心よりもやや左側で行います。
舟型ケーンから完成リードにするまでの使用工具&材料と加工手順
・メーキングマシン 最近は便利な機械が誕生して、プロ奏者のほとんどが用いています。ほぼ完成の状態まで機械で仕上げ、最後の微調整のみ手で行う方や、あくまで粗削り用として用いている方、ナイフ代わりに部分、部分を削られている方等使い方はいろいろです。メーキングマシンの一番のネックは、ナイフと同様に刃を研がなければなりません。そのためには刃をマシンから外し、研ぎ、取付ける。この一連の動作に慣れる必要があります。難しい場合は、製造メーカー又は販売店に調整に出されています。1回の刃でほとんどリードに手を加えないで完成の域まで削れる本数は約50本、粗削りだと約150~300本は一回の研ぎで削れます。
・リードナイフ 切れるナイフは上達の一番の秘訣です。ナイフが切れないでいらいらするのが一番良くありません。多くの方はナイフを4本前後持っていて、1~3本は仕上げ、1本は荒削りに使用しています。リードナイフは引っ掻く(スクレープ)ように使います。そのため、片刃で刃の厚みがあり、刃の角度が鈍感でナイフの重さで削れる物が良いでしょう。仕上げ用は軽くて小さいナイフや両刃もよく用いられます。片刃ナイフは右用と左手用があります。最近は、さまざまな使い捨ての刃が付いたカッターナイフも多く用いられています。いちいち刃を研がなくても良いのが便利です。ただし、刃先が両刃で鋭角なのと硬いためケーンの表面も硬く仕上がり音色も硬くなります
ナイフでスクレープしよう ナイフは切るものですがリード作りではスクレープします。スクレープとはケーンに直角に刃を当てて「引っ掻き傷を作るように」ナイフを動かすことです。スクレープで最も重要なことはリードを持つ指を動かしながらスクレープすることです。ナイフを持っている手は大きく動かしません。練習の仕方(右ききの方の場合)は、左手で使えなくなったリードを持ち、右手にナイフを持ってリードに刃を直角に当ててナイフの背または背から表面にかけて左手の親指を置きます。次に、左手の親指でナイフを押し出すように動かします。同時に人差し指以下の4本の指を握るように動かします。そうするとナイフは動かなくてリードだけがスライドします。この動きでリードをスクレープします。ナイフを持った右手は手首をひねるようにナイフを回転させます。最初はリードに対して刃先が直角よりもわずかに寝かせるように当てた状態から手首を回転させて直角を越えて、ナイフがリードに食い込む手前にケーンから刃先が離れるように回転させます。
ナイフの動かし方
直線削りと曲線削り ナイフは直線的に動かす方法と曲線的に動かす方法があります。直線的はその名の通り削りはじめと終わりが直線になります。曲線的削りはスクレープの中央より、先端両端に向かってU字を描くようにチューリップの花の絵を書くような削りはじめから曲線を描きます。この方法はスクレープの山の部分が幅広く残るので、息の抵抗感が強めで落ち着いた音色になります。
長距離削りと短距離削り ナイフを一度に長く(8~12mm)削るとリードのバランスが整いやすく明るくて素直な音色になります。逆に短く(3~6mm)動かして削るとスクレープの表面が凸凹になりバランスが難しい半面心地よい抵抗が得られます
傾き削り アメリカンタイプのリードで用いられる方法で、ナイフの傾きを調節しながら直進させる削り方をします。先端の薄い部分を仕上げるときは、ナイフの角度をサイドが欠ける位ナイフをサイドに傾けて削ります。アメリカンリードでサイドがギザギザになりやすいのはこのためです。ハート付近は中央線とサイドの中間を削り、中央線とサイドの端が均一になるように基本の傾け方で削ります。根元は左右をW字に削るときに、サイドを全く削らないで、中央線を左右双方が削る傾きにします。
ジグザグ削り ナイフキズをなくす修正削りで、ナイフの扱いが苦手だとついついナイフの切込みが出来てしまいスクレープの表面が切り傷だらけになってしまいます。そのキズを修正するための方法で、そのキズ(直線)に対して90度の方向からナイフを動かし傷が消えたらまた90度にして削るを繰り返します。この方法はより複雑な表面に削れるので抵抗感の大きいリードが生まれます。
砥石について リードナイフをしっかり研ぐには大きな水砥石が良いでしょう。砥石は刃渡りが斜めに全体が砥石に当たればOKです。研ぎ方は毎回、砥石を平らに修正してからナイフを研いで下さい。砥石は複数の砥石を用意しなければなりません。荒砥石(#600~800)中砥石(#1000~2000)仕上砥石(#5000~8000)そして、砥石の修正用にダイヤモンド砥石(#400~600)が必要です。
ナイフ研ぎ 爪にナイフを当てて引っ掻いてみて滑るようだと研ぎが必要です。簡単な方法である「皮砥」は馬や牛の皮を木に貼り研ぎ粉を塗った板状の物でナイフを滑らすように擦るだけで切れ味が戻ります。ただし、何回も行うと徐々に切れ味の回復は悪くなります。砥石を使う場合は数回砥石の上でナイフを動かすだけでも切れ味は良くなります。この時のコツは、研ぐ準備(砥石が遂げる状態にしておく)をしっかり行うことです。水砥石は研ぐ前に水で表面を湿らせておきます。水はそれ以上垂らしません。湿った砥石の上にナイフの角度が付いた方を斜めに砥石にしっかり当てます。そして3~5cm位刃を前にして刃を砥石に押し付けながら押し出すようにゆっくり動かします。これを5回ほど裏返して平らな方を1回動かします。あとは、ティッシュで水分をよくふき取り、適当なオイルを塗って錆から守ってください。オイルストーンを使う場合も同様に行ってください。ただし、オイルストーンは小さいので全面が当たるようにナイフの刃先を滑らせて研いでください。小さなサイズのオイルストーンは手で持って研ぐのが基本です。両手でナイフとオイルストーンを持ってさらっとしたオイルを潤滑オイルにして問いでも構いません。この時も軽くゆっくり行うのがコツですくれぐれも手を切らないようにご注意下さい。研ぎ終わったら必ず砥石の面を平に修正してください。そうでないと刃が波打ったり丸刃になってしまいます。
水砥石での砥ぎ方 ナイフ砥ぎの秘訣は常に砥石の面を平に修正しながら砥ぐことです。刃の裏は表30回に裏1回(返り、バリを取るだけです)にします。刃は砥石に押し付けて浮かないようにします。特に刃先が砥石から浮くと丸刃になります。刃先に力が入るように持って先を砥ぐように念じて動かします。慣れないうちは大きく動かしてはいけません。丸刃の危険が高くなります。5cmくらい前後にスライドさせてください。(砥石の半分を使用する感じです)砥ぎ方は荒い砥石からはじめますが定期的に砥ぎに出している方は中砥石だけを使って砥ぎましょう!砥ぎで難しいのは「砥ぎ汁」と呼ばれる黒くなった水(オイル)の使い方です。黒い水の正体はナイフの金属粉です。この「砥ぎ汁」が潤滑液となって砥ぐことが出来ます。なので水で流さないように、そして乾燥させない程度に水やオイルを上手に使ってください。砥ぎが不思議なのは砥ぐには砥石とナイフの摩擦にとって刃が削れて切れるようになりますが、同時に滑らせないと上手に砥ぐ事が出来ません。この二つの相反する動きが重要です。ナイフの持ち方は刃先を前にして砥石の幅に合わせ斜めに刃の面をしっかり当てて、刃先が浮かないように「すり合わせるように」前に押し出します。指は刃先に力が入るように持ちます。刃が浮くように押えると丸刃になって削れなくなるだけでなく修正も大変になります。丸刃を防ぐには、砥石全面を使わないで下さい。はじめのうちは5~8cmくらいのストロークで刃先が砥石から浮かないことを重点的に研いでください。ナイフを研ぐときは添える指の位置と力加減で砥げる場所と量が変わります。ある程度まで砥ぐとナイフの裏側に反対に返り(ばり)が出ます。刃先の全面に返りがでれば、裏側のバリを取ります(裏面を砥ぎます)。裏面は2~3回こすって返りを取ってください。裏面の返りを取るとまた、表の砥ぎに戻ります。これを何度か繰り返すとナイフは切れるようになります。
砥石の修正 砥石は常に平らでないと上手く砥げません。特に湾曲した凸凹の砥石を用いると、絶対に平らな面が出せません。丸刃になってしまいます。方法は砥石と修正用のダイヤモンド砥石をすり合わせ、砥石の面の汚れが無くなり新しい面が出るまですり合わせます。そのときに石鹸水を作って潤滑に用いると早くきれいに修正出来ます。
・プラーク リードを削る際にケーンの間に差し込んで下敷きの役目をします。形状は菱形と片方が尖ったボート形があり材質や厚みは好みの物を使用して下さい。プラークはナイフと同様にリード作りの重要な工具で、黒檀などの硬い木が一般的で、他に削れにくい硬質プラスチックや変形し難い金属があります。形は両端が細くなったオーバル形と片方だけが尖ったボート型があります。全面及び先端の仕上げにはオーバル型が適しボート型はサイドや特定の部分を削るのに適しています。厚みは使用するリードの先端の開きに合わせて選びます。先端の開きが大きいリードには2.0~3.0mmの厚みのあるプラークが適しています。反対に開きの狭いリードを好む型には1.0~1.8mmの薄いタイプが良いでしょう。 プラークは下敷きの使い方の他に、リードのバランスチェックに使えます。使い方は通常の使い方のように挟んで横からリードを眺めます。プラークが左右どちらかに傾いた場合は傾いた方向と反対側のケーンが厚い証拠です。例えば、右に傾く場合は左側のケーンのどこかが右に比べ厚い(張りが強い)ということになります。どの部分が厚いか薄いかを判断するにはプラークを挟む位置を調節します。プラークを浅く挟むほどリードの先端部の削り方がチェックできます。なお、プラークは必ずしも均一にはなっていないのでプラークの裏表、上下を変える等してチェックしてください。金属製のプラークは比較的均一に作られているので精度は高くなります。プラークは消耗品です。リードの先端を仕上げるときにプラークごと削る場合も少なくありません。そのためナイフで彫った傷が増えてきます。このキズは#400の耐水ペーパーで修正してください。溝が深くなるとリードの欠けにつながります。
・リードの先端を切る工具 リードの先を切るにはカッティングブロック&ナイフと、リードカッター、ハサミ等があり、前者はカッティングブロックの上にリードを置きナイフを垂直かやや斜めに当てて片方の手を刃の後ろに添えて力強く押し切ります。絶対に引いてはいけません。リードカッターは爪切り型や台付きがあり、真っ直ぐに寸法通りに切れる優れもの工具です。
リードの先端カットはカットする工具や方法がリードの性能に大きく関与します。リードの振動は先端の断面積に比例し、先端を直角にカットすると断面積は最も大きくなります。そうするとリードを振動させるのに息の力が必要になります。この断面積を小さくするためにリードにプラークを挟んで先端の角を「カタカタ」音を出しながらプラークごと削ったり、先端を耐水ペーパーで斜めに擦ったり、カッティングブロックとナイフを用いて裏表のケーンの長さが微妙に変わるように斜めにカットすることで、リードの性格を変えることができる重要な工程です。
・ペンチ ワイヤーを巻くのに使用します。大きさはコンパクトサイズが適しています。ペンチは挟む部分にギザが入っていて、ワイヤーを挟むと荒れて唇を怪我する危険性があるので、荒い耐水ペーパーを挟んで何度も引っ張ってギザを滑らかにしてください。
・ワイヤー 息漏れ防止や先端の開き調節に使います。ワイヤーを巻く位置はケーンの根元から3~5mmの所に二重に巻き付けます。種類はブラス(真鍮)が用いられますが、他にはお勧めしませんが鉄、ステンレス、銅等があります。ワイヤーは素材の質よりも「ブラスの太さや硬さ」にこだわった方が良いでしょう。太さは0.3mm、0.35mm、0.4mmが使われ、太いほど強く先端の開きの固定に有効です。また、ワイヤーは使用するがケーンの振動は止めたくない場合は、ワイヤーを「しごいて」硬くして使います。方法はマンドレルの根元を使ってワイヤーを一回り巻いてワイヤーとマンドレルを一緒に持って片方をペンチでしっかり持ち、ワイヤーをマンドレルで「しごく」ようにゆっくり強く引っ張ります。反対に、ワイヤーで適度に振動を制御したい場合はワイヤーを「なまし」ます。方法は片方の端をペンチで掴み、ワイヤー全体をライターで熱します。炎が弱いため徐々に赤めていきます。一度赤めれば冷えてもなまっています。熱した直後は触らないで下さい。
・耐水ペーパー #400~600でケーンの下準備やチューブの加工に使い、#1000~2000はリードの先端の加工に使用します。素材は砂、ガラス、アルミ、ダイヤモンド、プラスチックとさまざまですが使用したときにケーンに粉や汚れがつきにくいものを選んでください。ただし、台紙が厚く茶色い「木工用」は水に濡れると溶けるので使えません。一般には水に強い灰色の耐水ペーパーが一般的ですが、最近はプラスチックのシートを荒らしたフィルムペーパー(#800~2000)が普及してきました。フィルムペーパーは水に強いので繰り返し洗って使えます。
・糸 リードに使用する糸は材質の特性によってリードの性能が大きく変わります。その変化は削り方よりも激しく、リードの性能を左右するほど重要です。一般的なのは化学繊維(ナイロン、ポリエステル等)の糸で、よく伸び、切れにくいので扱いやすい糸です。ケーンがチューブから「抜ける」トラブルも少なくなります。ただし、リードの振動を抑える傾向にあるので強く巻かないことです。また、ゴムのように伸びすぎる糸は向いていません。伸びすぎる糸は一度強く引っ張って糸の弾力性を殺してから用います。完成リードに用いられている糸の多くが化学繊維です。一方その正反対に位置付けられているのが絹(シルク)です。絹(シルク)は細くて切れやすく、扱いの難しい糸で緩む性質を持っています。昔から用いられた糸で、リードの振動を止めない自然な響きが特徴です。その他には、混紡(綿と化学繊維)もよく用いられます。絹とナイロンの中間のような性質を持ち、糸の表面にケバが立っていて糸巻きの際に滑りにくく手に優しい糸です。麻(リネン)や綿は太く弱い糸で伸びる傾向にあり、リードの振動が最大限発揮できるかわりに「音の締まり」(凝縮感)が薄れる傾向にあります。綿や麻は多く用いられませんが、アンブシュアの負担が少ないので吹きやすいリードになります。稀に釣り糸(テグス)を使う方もいらっしゃいますが引っ張ると糸の外側は硬く、中は柔らかいため不思議な感覚に見舞われてしまうため、リード用には難しい素材です。また、強度が高いので締めすぎに注意が必要です。糸の太さやはサイズが0.3~0.5mm前後(引っ張ったときの径)で細い糸ほど響きを損ないません。メーカー表示は#8前後。料理に用いるタコ糸では太すぎで、ボタンのしつけ糸では細すぎです。太い糸は響きが硬くなる傾向ですが、巻き加減で豊かな響きを出すことも可能です。色は好みで用いてください。ケーンやチューブメーカーを色分けする便利です。ただし、同じ糸でも色の違いにより引っ張り強度が異なります。原因は加える染料で強さや性質が変わるためか、目や体の錯覚で巻く強さや位置が微妙に異なるのかは不明です。
・蜜蝋(ビーズワックス) 絹糸に摩擦で溶かしながら刷り込むこむことで、糸を強く引っ張った際に切れにくくします。また、糸部分からの息漏れを防ぐためにライターで焦げないようにあぶって糸にしみ込ませたりします。蜜蝋はバロック時代から用いられてきた素材で、有効な素材ですが「べとつく」のでフィッシュスキンを巻いて仕上げます。逆にフィッシュスキンが剥がれにくくなるのでペアで用いると便利です。なお、ナイロン糸、ポリエステル糸など石油系の糸には用いません。
・接着剤(瞬間接着剤、ラッカー、マニキュア等) 瞬間接着剤は糸の結び目に軽く染み込ませて糸のほつれを防止します。ラッカーやマニキュアは糸のほつれや息漏れを防止します。接着剤は音にも影響し厚く塗ると響きも抑えられます。リードを回しながら指で刷り込むように塗るのが理想です。ただし、指肌が荒れたり、汚れが落ち難いので女性向きではありません。
・ラップ(フィッシュスキン、食品ラップ、バンソウコウテープ、水道管白テープ) ケーンのずれや息漏れを防ぐ役目をする素材です。中でも、フィッシュスキンは昔から息漏れ防止に一番有効な素材で、伸びる方向と破れる方向があるので向きを確認して下さい。いずれも8~10mmで長さ30~60mmの長方形にしてケーンと糸の境を中心に巻き付けます。剥がれてきた場合はマニキュアやラッカーで固定します。食品ラップは出来るだけ薄い素材が適していて15~30mmの幅にセロハンテープと同じ形に加工してから用います。この加工は難しくカッターナイフで切るには大変です。近年、テフロンテープやシリコンテープといった白い水道管用のテープが用いられています。これは粘着性が良く扱いやすいため多くの方が用いてきましたが、テフロンを「燃やすと有害」という研究結果により現在は用いない方が良いとされています。テフロンかシリコンか見分けることは難しくリードの振動を止める素材でもあるので使わない方が良いでしょう。アンブシュアの負担を軽減するには大変適しているのですが、安全ブレーキをかけながら演奏しているのと同じなので上達は望めませんし音楽的にも有効ではありません。
5.舟型ケーンの下準備(糸を巻くまで)
・舟型ケーンの加工 舟型ケーンを湿らせます。水に浸す時間はケーンが沈むまでが良いでしょう。時間にして20~40分が目安です。2時間以上浸すとケーンが硬くなってリードは作りにくくなります。最初にケーンの両端を薄く斜めに削りますこれは糸巻きを美しく見せるだけでなくケーンの張りや音色にも影響します。約4~5mm削りますが3mmだとケーンの張りは保たれ、振動がチューブによく伝わるので音色は豊かで反応の良いリードになります。5mm以上削る(特にサイド部分)とケーンの張りは弱く、音色は暗く落ち着いたリードになります。
・折り曲げ加工 両サイドの曲線ライン全体に耐水ペーパーの#400を使って合わせる面をわに平らにして折り曲げたケーンの接点部分のずれと息漏れを防ぎます。次にケ央の折り目の裏から人差指又はナイフの刃を当てて慎重に折り曲げます。それから、ケーンの中央部を糸等で合わさった部分のずれや両サイドの締まり具合が均一になるように仮留めします。
・仮止め方法 ケーンの仮止めは一般に糸を使いますが、ワイヤーやリードレギュレーターも用いられます。仮止めをしないで糸巻きすると上下のケーンのズレや両端の塞がり具合が違ってしまい良いリードになる確率は下がってしまいます。仮止めに糸を使用すると、上下のケーンのずれが多少発生するものの、締め付けないことでケーンの根元のラインが自然で柔らかい音色で吹きやすくなります。仮止め糸をなるべく下(細い位置)に巻くとケーンのずれは防げますが、巻いた後にチューブに入らなくなります。そこでケーンマンドレルやマンドレル等をライターで熱して湿らせたケーンに差し込んで丸く形を作ります。それからケーンをチューブに差し込みます。注意することはケーンを焦がすほど熱するとケーンが硬くなります。糸を折り目に近く巻いたりリードレギュレーターを用いるとケーンの根元のラインが緩やかになります。息が入りやすく音色も柔らかいので有効です。ただし、糸巻き時にケーンが曲がりやすいのである程度は適切な位置と強い力で仮止めしてください。ワイヤーで仮止めを行う場合は、ケーンを締め付けるのでケーンの根元を細身に仕上げることが出来ます。もちろん、糸巻きの力も少なくてすみ上下のずれもなくなります。ただし、吹き込みに息の力が必要で反応はクリアで音色は少し硬めになります。チューブにケーンを差し込んだら傾きやチューブの底から見て向きが正しくなるように直します。
・ケーンとチューブの合体 ケーンをチューブに差し込む時はチューブの先端でケーンの裏側をえぐらないようにマンドレルをケーンに差し込んで入口を丸く広げてから行ないます。チューブを所定の位置まで差し込むとケーンは割れてしまいますが、割れることでケーンの張りが緩和され吹きやすいリードになります。割れを防ぐにはケーンマンドレルかマンドレルを軽く熱してケーンを水に濡らしてから差し込むとジュッという音と共に蒸気でケーンが割れなくなりますが柔軟性が失われます。上下のケーンのズレが気になる方や根元を細く仕上げたい方はワイヤーを使うと効果的です。その方法はワイヤーを二重に巻き付けたケーンをチューブに差し込んだ状態でペンチでワイヤーを引っ張りながら締めて、チューブの先端に近い位置で固定します。
6.糸巻き(リードの良し悪しの50%は糸巻きで決まります)
・巻き方はリードの性能に大きく関わり、糸の選択や力加減等で性能は異なります。
糸の巻き方は大きく「順手巻き」と「逆手巻き」があります。(左手で巻く場合は効果が逆になります)順手巻きは一般的な巻き方で「糸のより」を強くねじるように巻くため糸の強さは増します。また、糸の結び目を作るのも手順が簡単です。その半面、徐々に糸がねじれてくるので糸のねじれを直しながら巻かなければなりません「逆手巻き」は文字通り順手巻きと反対回りで「糸のより」を解くように巻くのでスムーズに、そしてケーンを優しく包むように巻くことが出来ます。欠点は糸を止めるのに時間を要します。糸の巻き方は糸の素材ほどの違いはないのでやりやすい方法を選択してください。
・リードの糸巻きで大切なことはスペースを広く取ることと糸をケチらないことです。 糸はある程度長めに使った方が糸の均一性が保て手の動きや負担も軽減されます。また、1kg前後の力とはいえ糸が細く手に食い込むため、痛いだけでなく皮膚の弱い方は切れる場合があります。あらかじめ、糸を引っ張る手に白手袋や鹿革などを糸があたる部分に付けて巻いてください。何も手元にない場合はガムテープを糸の当たるところに貼り付けて使用してください。
・糸巻きの力加減 吹き方(アンブシュア)やチューブの太さ、糸の材質で変わりますが700~1500gが一般的です。目安はペットボトルに水を入れて糸を繋いで机の反対側に垂らして引っ張ってみるとよく分かります。糸巻きで一番重要な事は、アンブシュアとの関係です。一般にリードを浅くくわえるアンブシュアの方は、緩めにケーンの根元のラインが緩やかになるように巻きます。リードを深めにくわえるアンブシュアの方はきつめに根元のラインが「きゅっ」と絞られた形になるように巻きます。緩やかに巻くと、リードは根元の部分まで良く振動するために、アンブシュアでリードの振動や開きをコントロールしなければなりません。反対にきつく巻くと、リードの先端部分が強く振動するので、アンブシュアは固定していてもリードが暴れて下品な音になることはありません。通常、オーボエリードに用いられる絹糸は1kg~1.5kg、ナイロン糸で3kg~4kgで切れます。また、チューブは絞り製法のチューブで約4kg、ロウ付け製法で約6kgでつぶれます。強く巻くよりは時間をかけて巻くことをお勧めします。糸巻きは糸を巻く力よりも巻く速度のほうが重要です。急いで巻くほど力が必要で、その力によりケーンやチューブに少なからず損傷を与えてしまいます。糸巻きは時間をかけて行います。コツはゆっくり引っ張ること、そして引っ張るたびにケーンとチューブがなじむのを待つような気持ちで2-4秒ほど止めながら巻きます。
・絹糸(シルク) 細く切れやすいので糸の端を固定し50cmほどの長さにして蜜蝋を糸の上で素早く滑らせて摩擦熱で糸に蜜蝋をしみ込ませます。仕上げにラッカーを塗る場合は絹糸を水に濡らし強めに引っ張って伸びきった状態で用います。糸の巻き方は最初にリ-ドの全長が74~75mmになるよう仮留めします。糸を固定し50cm程伸ばし右手(左手)に糸を持ち、左手(右手)親指と人差指でチューブの金属部分とケーンの先端の両サイドを同時に押さえチューブの先端よりも3~4巻き手前に1回巻き付けてゆっくり引っ張って糸を張り5秒以上維持します。ケーンが割れても気にしないでゆっくり先端の折り返し地点まで巻きます。ケーンの両脇が閉じる地点がチューブの先端よりも1~2回巻き手前にします。先端まで巻いたら糸の上を斜めに横断するようにずらして固定した糸の端を巻き込みながら残りを巻きます。コルク部分まで巻いたら縛ります。縛る方法は糸を輪にしてその輪をリ-ドに3~4回くぐらせて固定します。絹糸は切れやすいのでゆっくり丁寧に行うことが重要です。
・混紡糸やナイロン糸 一度強く引っ張って弾力性を殺してから用います。糸の巻き方は最初にリードの全長が約74~75mmになるよう仮留めします。糸を固定し50cm程伸ばし、右手(左手)に糸を持ち左手(右手)親指と人差指でチューブの金属部分とケーンの先端の両サイドを同時に押さえ、チューブの先端よりも3~4巻き手前に1回巻き付けてゆっくり引っ張って糸を張り3秒以上維持します。ケーンが割れても気にしないで、ゆっくり先端の折り返し地点まで巻きます。ケーンの両脇が閉じる地点がチューブの先端又は1~2回手前かチェックします。チューブの先端まで巻いても両脇が閉じない場合は、最初の設定を短くし、手前で閉じ過ぎる場合は設定を長くします。先端まで巻いたら糸の上を斜めに横断するようにずらして、固定した糸の端を巻き込みながら残りを巻きます。コルク部分まで巻いたら縛ります。縛る方法は糸を輪にして、その輪をリードに3~4回くぐらせて固定します。
・巻き終わったらチューブの長さを計って糸がチューブの先端からケーン側に巻き過ぎていないか斜めに曲がっていないかチューブに対して上下がどちらかに傾いていないかをチェックします。巻き過ぎは爪で糸をコルク側に押し上げると1mmくらいは下がるので、チューブの先端に合わせて押し下げてください。それでも無理な場合は巻き直してください。曲がったり傾いている場合は、糸を巻き終えた直後だと指で傾ければ直るので注意しながらケーンの傾きを直します。ケーンの留め糸を解いて、リードのサイドを#400の耐水ペーパーで整えます。
7.リードの削り方
①削り方で重要なのは、リード全体のバランスを取る削り方とナイフの使い方です。リードのバランスは3の数字が決め手になります。ケーンは1/3、1:3で出来ています。3:1ケーンの全長25mmに対して、サイドスクレープ8.33mm前後。3:1ケーンの最大幅7.2mmに対して、チューブの穴径の横幅2.4mm。3:1サイドスクレープの長さ8.33mmに対して先端の薄い振動促進部2.8mm。1/3スクレープの振動分割。左サイド部1/3、中央部 1/3、右サイド部1/3。
②リードの削り方は粗削り、中削り、仕上げ削りに分けることが出来ます。削り方で大事なのは慌てて削らない事です。時間を気にしては良いリードは作れません。それと、最小限の削りで最大の効果を出すことです。リードは10~20回使用しないと安定しないので、一気に削って鳴るようにしてもリードの性能を高めるように少しずつ仕上げたほうが良いでしょう。
・粗削りとは糸巻きの後に先端がカットできる厚さまで薄く削る作業を指します。まず、先端8mm程度をナイフで斜めに削ります。これはケーンの折り目が鯉の口のように開かないようにする事と上下のケーンがずれるのを防ぐためです。削ったら、折り目を強く押さえて乾燥時にケーンが開かないようにします。そのため、折り目が切れて、離れてしまわないように折り目を強く押さえながら削ります。次に仕上げの寸法より短めになだらかに削り、かろうじて音が出る位にします。さらに、出来るだけリードを指で潰して、開きを狭くする作業を根気良く続けて下さい。新しいリードはすぐに鳴りにくくなります。これはケーンが丸くなろうとしているためで紙も丸めれば強くなるのと同じです。尚、メーキングマシンを使用する場合は、粗削りと中削りが一気に出来るので便利です。
・中削りとはスクレープが決まり、先端の薄い部分が出来るまでです。リ-ドが良く振動するように先端に向かって薄く、中央線(山)から両サイドに向かって薄くします。したがって、先端の両サイドが一番薄くスクレープの根元の中央付近が一番厚くなります。この基本の範囲の中で好みの削り方にします。また、削りを中央線よりに削る(又はサイドよりに削る)ことでリードの反応や音色を変えることが出来ます。一般的にスクレープが短いほど(10mm以下)根元と両サイドを薄く、先端の薄い部分は短くします(0.5-1.0mm)スクレープが長い場合は(14mm以上)根元と両サイドは厚めで先端の薄い部分も厚めで長め(1.5-3.0mm)になります。
・仕上げ削りは主に先端の仕上げと全体を整える作業で、出来る限り削らない、先端をカットしない調整を心がけて下さい。仕上げで削る部分の多くは極先端を仕上げる、スクレープの長さを決定する、そして全長を決める(カット)のに留めて下さい。
③スクレープの形状と特性 スクレープはそれぞれに特徴があり性能や音色を考慮しながら好みで選択します。スクレープの形には意味があり、息の流れ(リードの振動)を調節する働きを持っています。リードは入り口から息が入り、チューブの先端に向かって集約されます。(単位mm)
形 状: 直径 材料厚 スクレープ 備考
一文字: 9.5前後 0.55位 8-10 薄めで硬いケーン
U 字:10.0前後 0.58位 10-11 やや硬いケーン
V 字:10.5前後 0.60位 10-14 やや柔らかいケーン
W 字:10.5前後 0.62位 18-23 厚めで柔らかいケーン
④削り方と吹き方、楽器の相性 スクレープの先端、中央、根元でリードの性能が決まります。また、山部、サイド部、山とサイドの中間部が吹奏感と楽器の相性に関わります。
先端部:イントネーションやタンギング等音の艶と反応に関係します。
中央部:ハートが厚いかショルダーとの差が大きいと抵抗感は強くなります。
根元部:スクレープの段差が少ないと先端の開きは小さく、くっきりと段差をつけると開きは大きくなります
山峰部:幅広で厚いと吹奏感は強くなります。
サイド:音の性質と音抜けに影響し薄いほど音は柔らかくなる反面、音抜けが悪く楽器との相性が悪くなります
中間部:山部とサイド部の中間は音の明暗に関わり薄いほど暗くなります。これらのバランスが崩れると最初に第 1オクターヴキーのF#、G、G#がオクターヴ下がったり、詰まった抜けない音になります。少し悪い場合 は中音のEが定まらなくなったり中音Fが半音高くなったりします。わずかに合っていないリードはBbや H(B)の音抜けが悪くなります。これらの症状が出ないリードは優れたリードです。
⑤固定方法 リードの変化を防ぐためにワイヤーやラップが用いられ、ケーンの形を維持したりアンブシュアの負担を軽減するために使われています。ラッカー(マニキュア)は糸の隙間やケーンの根元の息漏れを防ぐのに用い、2~3度塗りによって息漏れを防ぎます。ワイヤーは先端の開きを固定したり息漏れを防ぐのに効果的ですが、短めのリードは響きが硬くなったりピッチが高めになるため締め過ぎてはいけません。太さは0.3mmが基本で巻き方は糸のすぐ上に少し緩めに二重に巻いて最後をねじって取り付けます。取り付けたら指定の位置にずり上げて固定しニッパー等で3~4回捻った部分を残してカットして下さい。切った先端を内側に折り曲げておくと唇を切ったりしません。尚、何日か経過すると緩むことも考慮に入れておきましょう。フィッシュスキンやラップの巻き方は10~15mmに切り、締め付けないように巻きます。乾くとすぐに剥がれるのでラッカーで固定してもかまいません。一度に巻く回数や大きさは自由です。
削り方の順番(インターナショナルタイプ、ジャーマンタイプ)
①粗削りしたリードを適度に水に湿らせます。
②先端の折り目が直線になる位、指で押さえて開きを狭くします。くれぐれも割れないように加減してください。必要であれば、中央とサイドの間及び先端部分を薄くします。
③先端の折り目を切る前に大まかな荒削りを行いU字のラインを入れる準備をします。ケーンの根元(糸の端し)から中央スクレープの長さを測ってU字のラインをナイフで溝(切れ目)を入れますリードを測る基点はケーンの根元からです。例えばリードの全長が72mm、ケーンのみの長さが25mm、中央のスクレープが10mmでリードを仕上げる場合は、基点から15mmの位置に溝を入れます。U字ラインは中央にナイフを押し付け、左右それぞれにナイフを曲線に動かして溝を付けます。その際に、ナイフだけを動かすと左右の曲線がふぞろいになります。リードを持つ手もナイフの動きに合わせて動かすときれいなラインが作れます。
④ラインから先端に向けて均一にケーンの表皮を削ります。なるべく、ナイフを寝かすようにして刃が食い込まないように裏表を滑らかに削ります。削り方は、中央とサイドの間を狙って先端が菱形の開きになるように直線的に削ります。なるべく、中央を山の線になるように、そしてサイドを薄くしすぎないように注意して削ります。この方法は中央スクレープが10mm前後(9~10.5mm)に適しています。11mmを超える場合はスクレープ根元の中央の山から先端の両サイドに斜めに削るようにナイフを動かします。いずれも、削る基本はリードの先端に向かって薄くすることです。
⑤先端をカットしますが仕上げよりも0.5~1.0mm長めにします。例えば仕上が72mmだと72.5~73mmにカットします。これはケーンが厚いままカットすると切った断面が荒くなり先端を薄くする作業の際に削り白がないと削りにくいため、先端の薄い部分の表面積がどうしても大きくなってしまうからです。仮のカットなので切る道具は何でも構いません。
⑥プラークを挟んで削ります。削り方は先端の薄い部分から仕上げます。これはケーンの寸法や材質によって一本一本弾力性が異なるので少し削っただけで軽い(薄い)リードになってしまう危険性がありからです。もう一点削り方のコツでケーンの中央部分を削ろうとしないことです。両サイドの先端を削っているうちに自然に中央部分も削れてきます。リードの良し悪しは先端の薄さで決まり、特に両サイドの極先端の厚みは0.03~0.04mmなのですが、ケーンの質が良いほど何層にも繊維が詰まっているので一度に仕上げることは難しくなります。繰り返しケーンを湿らせていると、層が膨らんで先端の厚みも徐々に厚くなってきます。そのため、先端の仕上げは時間と回数を重ねる作業になります。
⑦ある程度音が出るようになったらピッチを確認します。リードの先端の開きの大きさを0.5~0.8mmに調節したらクローをチェックするように深めにリードをくわえて強く吹きます。最終的にはHに落ち着きますが、この段階ではCが良いでしょう。C#以上だとまだまだ全体に厚く、Hだと削りすぎの可能性があります。B(Bb)だとあきらめて新たに作り始めることをお勧めします。リード作りの初期段階では、ケーンの硬さや弾力性が邪魔をして削り具合が分からなくなります。リード作り時のチェック吹きは、アンブシュア(口及び唇)にかなり負担がかかりますが、吹き心地よりもピッチを優先するとリードの成功率は上がります。Cの音が出るようになったら仕上げにかかります。
⑧先端の仕上げ(カット)を行いますが、使用道具と使い方でリードの性格が変わります。直線的なカット方法はリードカッター、爪切りカッター等を用いる方法でリードの先端の断面が表裏とも均一で真っ直ぐ切ります。この方法はリードの反応が良く明るくてクリアな音色になります。欠点は特に低音のpp(ピアニシモ)が出しにくくニュアンス(表現)が作りにくくなります。それらを解消するには、カットした後にプラークとナイフを使ってリードの極々先端をプラークごと削るつもりで切った断面の角を丸くするように削るのではなく擦るように何度も動かします。または#1000~2000番の耐水ペーパーを硬い平らな場所において、リードの先端部分が斜めに当たるように持って2cmほど引くように断面の角を落とします。その場合はリードをわずかに左に傾けるようにすると中央の先端部分の厚みが残るので落ち着いた響きが維持できます。もう一つの方法で斜めカット方法(鋭角なナイフ&カッティングブロック)があります。この方法は上下のケーンを斜めにカットする方法で、片面は中央部分がわずかに膨らみ反対の面はわずかに凹んで仕上がります。方法はカッティングブロックにリードを傾けて置きナイフもカッティングブロックに直角ではなくリードの先端を削ぐイメージに傾けてカットします。斜めにカットする場合はケーンの裏表で厚い方を下側にします。厚さをチェックする方法は先端の開きを狭くしたときに曲線を保つ側が厚く直線的な方が薄くなります。リードの先端を斜めにカットするメリットは極先端の断面積が斜めに切られているのでピアニシモが楽に出せます。また、リードの振動が暴れないのでふくよかで優しい音色になります。欠点は反応が鈍くなり音切れも悪くなります。
⑨仕上げを行いますができる限り削らないで仕上げることを目指してください。リードの仕上げは指と吹き込みでリードを鳴らして慣らします。リードは吹き込むことで吹き手の好む振動に変化します。まずは15~20分の吹き込みでリードを試してください。この時の最低条件は、リードのピッチがH-Cであること、楽器に付けて吹いたときに第1オクターヴキーを作動させたGの音が詰まらない、Fが不安定にならない、中音のH(B)が下がらないことに注意してください。これらに当てはまらないリードは最終的に良くなることはありません。先端カット、幅を狭くする、ワイヤーやフィッシュスキンで根元を固めるなどで多少は改善されます
削り方の順番(フレンチタイプ)
①粗削りしたリードを適度に水に湿らせます。
②先端の折り目が直線になる位、指で押さえて開きを狭くします。くれぐれも割れないように加減してください。フレンチタイプのリードは、先端をカットしないでスクレープを仕上げてしまいます。直線仕上げはインターナショナルタイプと同様に中央とサイドの中間を削ってW字のラインを描きます。
③リードの全長が73mm、ケーンの長さが26mm、中央のスクレープが13mmでリードを仕上げる場合は、ケーンの根元13mmの位置からW字に削り始めます。基本は先端に向かって薄く削り、根元の削りはじめはそのまま残します。このタイプの削り方のメリットはリードが厚くて響かない場合はそのまま、スクレープを伸ばすだけでよいので最後の微調整が簡単です。
④斜め線仕上げはスクレープの中心線の根元部分を出発点に、先端両サイドに向かって削る方法で、中央のハート部分がしっかり残る抵抗感の強いリードになります。寸法は直線仕上げと同じです。全体を薄く仕上げると軽い吹き心地で、息の抵抗感はそこそこ強いリードになります。出発点からサイド側にやや曲線を描くときれいなU字ラインが作れ、近年のインターナショナルリードのタイプに似てきます。インターナショナルタイプにするには全長が72mm、ケーンのみの長さが25mm、中央のスクレープが11mmでリードを仕上げる場合は基点から14mmの位置に溝を入れます。
⑤先端をカットしますが仕上げよりも0.5~1.0mm長めにします。例えば仕上げが73mmの場合は73.5mmにカットします。フレンチタイプは先端の薄い部分が広くインターナショナルタイプよりも厚めなので神経質になることはありません。
⑥プラークを挟んで先端の薄い部分を仕上げます。音が出るようになったらリードのピッチを確認します。リードの先端の開きを0.5~0.8mmに調節したらクローをチェックするようやや深めに加えて強く吹きます。最終的にはHに落ち着きますがこの段階ではHからCが良いでしょう。
⑦フレンチタイプのリードを吹く方法はリードを噛んで吹きます。そのため、新しいリードのチェック吹きに苦労することはありません。吹き心地よりもピッチを優先するとリードの成功率は上がります。Cの音が出るようになったら仕上げにかかります。
⑧先端の仕上げ(カット)ですがフレンチタイプのリードはナイフとカッティングブロックを用いる斜めカットが適しています。これは上下のケーンを斜めにカットする方法で片面は中央部分がわずかに膨らみ反対の面はわずかに凹んで仕上がります。方法はカッティングブロックにリードを傾けて置き、ナイフもカッティングブロックに直角ではなく、リードの先端を削ぐイメージに傾けてカットします。斜めにカットする場合は、ケーンの裏表で厚い方を下側(やや長くなる側)にします。厚さをチェックする方法は、先端の開きを狭くした(潰した)ときに曲線を保つ側が厚く直線的な方が薄くなります。リードの先端を斜めにカットするメリットは極先端の断面積が斜めに切られているのでピアニシモが楽に出せます。また、リードの振動が暴れないのでふくよかで優しい音色になります。欠点は反応が鈍くなり音切れも悪くなります。
⑨仕上げを行いますができる限り削らないでリードの開きを押さえて仕上げることを目指してください。リードの仕上げは指と吹き込み(アンブシュアと息の力)でリードを仕上げます。リードは吹き込むことで吹き手の好む振動に変化します。まずは15~20分の吹き込みでリードを試してください。この時の最低条件はリードのピッチがHであること楽器に付けて吹いたときに第1オクターヴキーを作動させたF#、G、G#の音が詰まらない中音のCがぶら下がらないことに注意してください。
削り方の順番(アメリカンタイプ)
①リードを水に湿らせます。アメリカンスタイルのリードは、上下のケーンの膨らみが大きくなると著しく作りにくくなります。そのため、プラークも薄い平らな物を使用し、削るよりもリードを指でしごく方が多くなります
②先端の折り目が直線になる位、指で押さえて開きを狭くします。くれぐれも割れないように加減してください。必要であれば中央とサイドの間及び先端部分を薄くします。
③先端の折り目を切る前に大まかな荒削りを行います。アメリカンスタイルは先端振動部、ハート、根元の3つに分かれます。まず、先端振動部から作ります。特に、中央にナイフが当たらないようにサイドよりの中間を削ってカットできる薄さまで削ります。
④先端を仕上げより0.5~1.0mm長めにカットします。例えば仕上げ全長が71mmの場合は71.5~72.0mmにカットします。このカットは仮なので道具は何でも構いません。
⑤ハートの部分を仕上げます。薄いプラーク(金属やプラスチック製)を挟んで削ります。アメリカンリードの製作者の多くはプラスチック下敷きから作った平で薄いプラークを用います。薄いプラークを挟んでハートの形を作ります。方法は中央とサイドの中間を山形になるように平面に削ります。これは先端の開きの形を菱形にするためです。
⑥先端の薄い部分を仕上げます。先端は両サイドよりに薄くします。そのため、先端中央はかなり厚めで光にかざすと山なりに映ります。方法はナイフをサイドよりに倒して削ります。そのため「かじられた」様な両端になっているリードはこのためです。欠けているくらい両端は薄く仕上がっています。
⑦スクレープ全体を削ります。アメリカンリード独特の方法は、左右の削りの一部が重なるように中心をダブルように削ることです。基本的にサイドの表皮は残したままです。そして、その流れはハートの部分まで続きます。
⑧ある程度音が出るようになったら、リードのピッチを確認します。リードの先端の開きの大きさを0.5mm前後に調節したら、クローをチェックするようにやや深めに加えて強く吹きます。最終的にはCに落ち着きますが、この段階ではD以上だとまだまだ全体に厚くCだともう削りすぎの可能性があります。H以下だとあきらめて新たに作り始めることをお勧めします。理想はC#です。リードは作りの初期段階でケーンの硬さや弾力性が邪魔をして削り具合が分からなくなります。リード作りの際のチェックはアンブシュアに負担がかかる吹き方をしますが吹き心地よりもピッチを優先すると成功率は上がります。特にアメリカンリードは削りの面積が大きいので変化も大きくなります。
⑨先端の仕上げ(カット)を行いますがアメリカンリードは鋭角なナイフ&カッティングブロックを用いて上下のケーンを斜めにカットします。これにより片面は中央部分がわずかに膨らみ反対の面はわずかに凹んで仕上がります。方法はカッティングブックにリードを傾けて置き、ナイフもカッティングブロックに直角ではなく、リードの先端を削ぐイメージに傾けてカットします。斜めにカットする場合はケーンの裏表で厚い方を下側(やや長くなる側)にします。厚さをチェックする方法は先端の開きを狭くした(潰した)ときに曲線を保つ側が厚く、直線的な方が薄くなります。
⑩仕上げを行いますがお勧めはできるだけ削らないことです。リードの仕上げは指と吹き込み(アンブシュアと息の力)でリードを鳴らして慣らします。リードは吹き込むことで吹き手の好む振動に変化します。まずは15~20分の吹き込みでリードを試してください。この時の最低条件はリードのピッチがCであること楽器に付けて吹いたときに第1オクターヴキーを作動させたGの音が詰まらないことEが高くならないこと開放のCが低くならないことに注意してください。該当する場合はどれだけ吹き込んでもよくなりません。先端をカットする幅を狭くすることで補正してください。
⑪オーバーラップ作りでピッチと音量をコントロールしよう。アメリカンリードの最大の特徴はオーバーラップと呼ばれる上下のケーンのズレです。これを良しとしないアメリカンリード奏者もいます。このズレの特性はピッチと音量にあります。ズレることでケーン部分の体積を小さくしピッチを維持することが出来ます。また、低音域のピアニシモが楽に出せます。反対にフォルテが出しにくくなりますが、ズレを直す角度に楽器を傾けながら吹くことでズレが補正されて大きな音が可能になります。
8.リードの再生方法
リードは元の丸い筒に戻ろうとする現象により重くなりますが徐々にケーンの層(細胞壁の隙間)が離れることもリードが重くなる原因です。そのため、特に先端部の薄い部分はわずかな膨らみのでも鳴りにくく感じるので手直しが必要になります。リードの手直しは出来るだけ削らないことです。まず、指だけで元の状態になるように開きやケーンの膨らみ等を補正します。上下のケーンのズレを直す場合はプラークを挟んでねじるように直します。プラークをリードに挟んでリードを押さえながら引っ張るかリードを掃除してみます。それでも改善されない場合はワイヤーで調整します。息漏れの場合はラップを巻き開きが出なくなったリ-ドやピッチが低い場合はリードカッターで先端を0.3mm切り落とし耐水ペーパーで1回だけ上下のケ-ンを擦ります。古いリ-ドは汚れた表面のみをプラ-クを挟まないでナイフでこするように落とします。ピッチが高い場合はプラークを挟んでスクレープを伸ばします。以上でも改善されない場合は以下の部分を削ってみます。それでも直らない場合は時間の無駄なのであきらめましょう
トラブル内容 :解決策
音色が荒く艶がない :両先端のサイド
響かない、倍音が少ない :先端の中央部
張りが強い、音色が甲高い :中央部のサイド(肩、ショルダー)
息が入らない、鳴らない :ハート
息の抵抗が強い、中音域がうわずる :根元の中央部(山、峰)
音がうるさい、張りが弱くならない :根元のサイド
高音域が鳴らない、下がる :幅を狭くする
先端の薄い部分が長くてG、Cが下がる :先端をカットする
第四章「オーボエの仲間のリードについて」ケーンの表示
・ケーンの直径、厚さ 直径 (中央厚) (サイド厚)
オーボエミュゼット A ( 9.5前後) (0.52-0.55) (0.42-0.45)
オーボエ B、C (9.5-10.5前後)(0.55-0.65) (0.42-0.57)
オーボエダモーレ D ( 11.0前後) (0.62-0.65) (0,52-0.57)
イングリッシュ・ホルン E ( 13.0前後) (0.65-0.72) (0.55-0.60)
バスオーボエ F ( 15.0前後) (0.70-0.75) (0.60-0.65)
ヘッケルフォーン ( 20.0前後) (0.80-0.85) (0.70-0.75)
・舟型ケーンのサイズ (最大幅) (平行部) (最小幅)
オーボエミュゼット ( 6.5- 6.7) ( 6.0- 7.0) (2.7-2.9)
オーボエ ( 6.7- 7.5) ( 8.0- 11.0) (2.9-3.6)
オーボエダモーレ ( 7.5- 7.8) (10.0-11.0) (3.5-4.0)
イングリッシュ・ホルン ( 7.8- 8.4) (11.0-12.0) (4.5-5.0)
バスオーボエ ( 8.5- 9.0) (12.0-13.0) (5.0-5.5)
ヘッケルフォーン (12.0-13.0)(13.0-15.0) (8.0- 9.0)
ウインナオーボエ ( 6.7- 7.5) ( 8.0-11.0) (3.3-3.6)
・リードの寸法 全長 厚さ 幅 チューブ スクレープ(平行面)
オーボエミュゼット 63 0.55 6.5 40 20 (12)
オーボエ 72 0.60 47 11 ( 8)
ウインナオーボエ 60 0.65-0.50 7.2 35 16 ( 8)
オーボエダモーレ 50 0.62 7.5 25 12 (10)
イングリッシュ・ホルン 57 0.65 8.0 27 12 (10)
バスオーボエ 60 0.70 9.0 30 14 (12)
ヘッケルフォーン 55 0.85 10.5 25 18 (12)
1.オーボエミュゼット ミュゼットはオーボエよりも更に小さいサイズのリードなので、ケーンの内側の柔らかい部分を使用します。 チューブはオーボエの一回り細いサイズですが、オーボエのチューブの底をカットして全長40mmにしたものが代用できます。削り方はロングスクレープが適しており、先端の薄い部分が長い(2-4mm)のが特徴です。オーボエミュゼットは高音域担当の楽器なので、低音域がグルグル(ウォルフ、ローリング)鳴るくらいのリードが良いでしょう。そのため、リードだけ吹いたときにクローはD、からEくらいで「ピー」音しか鳴りません。
2.オーボエダモーレ ダモーレのリードは限りなくオーボエに近くオーボエの少し大きめのリードと考えてください。ダモーレやEHはベルが梨状で出口が細くなっています。そのためリードが振動し難い(先端の薄い部分が短い、全体に厚い等)とLowCの音がグルグル(ローリング)とオクターブ上のCにひっくり返りそうになります。リードは全体的に薄く鳴らしやすく仕上げてください。また、ドイツの楽器はバッハに代表されるような教会音楽や室内楽用に出来ているので響きがおとなしくなります。そのため、リードは先端の薄い部分の面積を広くして大きな振動を確保するのがコツです。
3.イングリッシュ・ホルン(コールアングレー) イングリッシュ・ホルン(EH)よりも低いオーボエ属のリードはオーボエのサイズや削り方は忘れてください。EHはファゴットの領域に入ります。ケーンの部分が30mm、チューブの長さが27mmとファゴットリードと同じサイズになります。そのため、削り方も先端に向かってなだらかに削ります。先端の薄い部分に段差を設けたり極端に薄くすると響きを失ってしまいます。
4.バスオーボエ イングリッシュ・ホルンと同様の削り方(ケーン部分30mm、チューブ30mm)をします。コツは音色よりも響き(振動)を重視することです。
5.ヘッケルフォーン ヘッケルフォーンは1975年頃を境にボーカルのサイズが変わっています。そのため、個々のボーカルに合わせた金属チューブ(EHと同様のチューブ)を作らなければなりません。作り方の基本はEHと変わりませんが、ファゴットの細身のケーンを用います。チューブを使用しない場合はバスーンのリードの一回り小さいリードで、ボーカル差込口を大きくしたリードでも差し支えありません。