演奏会、講習会

 

どうしたら修理者(オーボエ、バスーン)になれるの?

楽器店のカウンターや演奏会場で見かける修理者の姿は、急に楽器が壊れた方には救いの神のように「カッコ」良く見えます。将来は修理者になりたいと言う気持ちも湧いてきます。リペアマンにとって一番の晴れ舞台です。しかし、実際は地味で「常に考え、常に悩み、常に落胆」の繰り返しで達成感の少ない仕事です。なぜなら、修理には全く同じ修理がないからです。楽器以外に吹き方やリードに問題がある修理も多々あり、常に不安を抱えています。この道何十年と続けられた方でも「今までに完璧という仕事が一度もない」とおっしゃっています。とはいえ誰かがこの仕事をやらなければなりません。                             

楽器修理者に向いている方は「この仕事が好きでたまらない方です。さらに「素直で礼儀正しい、人として当たり前の事が出来ること」です。「おしゃべり、明るい、元気」といったポジティブ要素が加われば言うことなしです最近、流行りにブラック企業がありますが、修理の仕事は1日の大半が修理に拘束されているのでブラック?な仕事だと思っていただいて間違いありません。そんな仕事です。どうしてもやりたい方は、いろいろな楽器店に積極的に訪問してみましょう!まずは「あなたの存在」を知らなければ縁は繋がりません。

修理者に必要な資質

・修理について:修理前に楽器の状態をよく見る事がだいじです。そして依頼者の話も聞いて内容を把握する必要があります。また実際に吹いてもらうとよりはっきりします。オーボエやファゴットはキーの開きがわずかに変わっても音程はさまざまに変化します。できるだけ部品交換の修理に留め、可能なかぎり前の状態に戻す努力をしなければなりません。できれば前の状態をメモにしておくことが必要です。オーボエやファゴットに限らず楽器は性能が良くなればなるほど魅力が薄れていきます。たとえば、音程を良くすれば音色の魅力が薄れ、音色を良くすれば操作性が悪くなります。楽器の修理は完璧がベストではありません。ある部分は奏者に委ねるのも修理者の腕です。楽器修理の上達方法は修理技術習得を優先することです。自ら資料を集め、本を読み努力するしかありません。その上で「各楽器に精通した技術者」に聞くことです。技術者のほとんどが販売促進のための修理ですから、取引さえうまくいけば教えてくれます。ただし、専門の技術者でないと効果はありません。多くの修理者は部品交換で手一杯なのです。技術習得に於ては、各楽器特有の情報や知識を得ることが大事です

・素直なこと:素直であることは思った以上に難しいもので謝ることも出来ない人もいます。その人の育った環境や受けた教育がそうさせたのでしょうが素直であることは年齢やキャリアを重ねるごとにさらに難しくなります。技術の世界で「頑な(かたくな)」方は成功しません。「仕事を貫く意地」や「修理に対するこだわり」といった良い意味での「頑固さ」は必要です。しかし、「頭が柔らかい」の反対語である「頑固」は百害あって一利なしです。

・演奏について:修理者は修理を担当する全ての楽器の基本奏法に精通していなければなりません。それぞれの楽器に対してプロ以上の知識が必要なので総合の修理者は大変です。なぜなら、ピッチや音程、響きなどは姿勢や呼吸法、アンブシュアで大きく変わるからです楽器演奏は特に上手である必要はありません。楽器の構造と運指をしっかり理解していれば問題はありません。それよりも、なまじっか吹けることで何でも吹いて直すと修理のトラブル、クレームにつながります。修理者の多くが何らかの楽器を演奏しますが、プロで通用するような技量を持っていることは大きなアドバンテージになります。しかし、自分が吹ければOKと勘違いし自分好みの調整になってしまいがちです。

・営業が嫌いだから:この世界に飛び込んでくる多くの若者は「人と接するのが嫌い」「営業は大変」「技術を習得すれば食うに困らない」「定時の仕事がしたい」「楽器を吹いていたいから楽器に関わる仕事がしたい」など、どちらかというとネガティブ的な発想から修理者を希望されている場合が少なくありません。しかし、修理者は依頼者から修理内容を聞き出す話術が必要です。聞き上手、話し上手でなければクレームにつながってしまいます。「直っていない」原因のほとんどは言い忘れや聞き漏らしから発生します。対人恐怖症や赤面症の方だと技術の習得よりも応対に苦労します。

・修理者専門になりたい:製造メーカーのように黙々と修理だけを行う仕事は極々限られた仕事になります。それは修理だけで生計を立てるのは難しいからで、修理で生計を立てようとすると1時間当たり12000~15000円の修理代を請求しなければなりません。大きな楽器店で修理をするとこのくらいかかるのは致し方ありません。しかし、学校予算では難しいことも多く、サービス料金にせざるを得ないのが現実です。そのため多くの楽器店の修理者(技術者)は修理を一つの武器と考えて営業にウエイトを置いている方のほうが多いようです。

・不器用な人は向かない?:「自分は不器用」と思っている方はいませんか?大丈夫です。今の世代の90%の方が不器用と言っても過言ではありません。しかしながら、その中でも「包丁や金づちを使ったことがない方」これは残念ながら修理者には向きません。違う道をお勧めします。器用になるには「なんで?どうしたら?」など常に疑問(5W1H)を持ち、その答えを導き出し失敗を恐れずトライすることです。その繰り返しが器用を生みます

・良い修理者になるには?:修理で難しいのはユーザーの希望(修理内容)を正しく汲み取り、原因を見つけ、方法を提案することです。このためにはトップセールスマンのような接客が必要です。店番のような接客では信頼される修理者にはなれません。この作業は「センス」の一言で片付けられてしまいますが、やる気さえあれば努力で克服できます。

・修理で一番難しいのは?:修理で難しいのは、楽器をよく観察すること、お客様からの依頼を正しく聞き取ることです。そして問題点を見つけ、方法を考えることです。その後の修理はさほど難しくありません。

管楽器の修理者のメリット、デメリット

・需要と供給:管楽器の修理者は、セールスエンジニア(半分修理、半分営業)も含め全国で3000人前後です。管楽器奏者はざっと300万人ですから楽器1000本を一人で修理する計算になります。複数本持っている方、年間2回メンテナンスや調整、修理に出されると1日10~20本携わらなければなりません。ましてや、人気のある修理者になると楽器や修理内容によっては1日20~30本もの修理をこなします。それだけ、修理者は足りません。演奏家に対して修理者が足りない状況にあります。

・修理者の収入:修理者の収入は残念ながら多くはありません。名声を得た修理者であれば別ですがそれでも普通のサラリーマン程度です。最近は修理に対する評価も高くなり、修理だけで生計が成り立つようになりました。一般のお客様が修理代金が高いと感じるのは、修理楽器を外注に出す楽器店に依頼した場合で、通常の修理金額の1.5~2倍の料金だからと思われます。

・7つの力                                               *人間力(人間性、探究心、こだわり)
*学習能力発想力(アイデア)                                     *記憶力
*体力(健康とバイタリティ)                                     *精神力
*応用力(素直、柔軟性、頑なでない)                                 *応対力(人見知りではだめ、協調性)

・習得内容                                              *基本技術(回す、叩く、曲げる、合わせる、ひねる、貼る、削る)
*基本知識(安全、作業内容、方法)
*音楽・楽器知識(楽典、奏法)
*機械・工具知識(使い方)
*化学知識(薬品、溶剤、接着剤)
*応用力学
*商品・素材知識

修理者への一歩

楽器修理者になるために修理学校で勉強する、それ以外の道は閉ざされているのが実情です。長年、プロ奏者として活躍後に修理者に転向される方やメーカーから独立される方を除くと、「修理学校」⇒「楽器店」(途中海外メーカーで研修)⇒「独立」のパターンが一般的です。この項ではどうやったら修理者になれるかの例を書き出してみました。

・修理学校:一番てっとりばやく、しかも修理者として魅力的だと卒業後、楽器店に就職したり、修理学校の先生に抜擢されたりする可能性もなくはありません。しかし、全ての卒業生が楽器修理に従事出来るわけではありませんので入学してからが激しい競争になります。音大を卒業後、入学される方も少なくありません。

・独学:やる気があって頭がよければ独学で身につけることも可能です。特に技術系の仕事に従事していた方は機械や化学に精通しているので難しくはありません。独学といってもありとあらゆる手段を使って多方面から学ぶという意味です。最近はインターネットで様々な情報を得ることができるので難しくないと思います。ただし、開業後の顧客を集めるのに時間と労力を必要とします。本(カタログ)や工具店(主と会話)、楽器店(修理室を窓越しに除く)、修理学校(入学見学会)など全てを参考にしてください。

・弟子入り(個人修理者):一般に押しかけ、居座り、仲良くなる方法で、無給でアシスタント的な手伝いや見て覚えるという方法で修理を身に付ける半ば強引な方法です。この場合は修理者との相性など条件がそろわないと難しいですが、私の友人で修理をしている方でこの方法で成功した方も少なくありません。

・楽器店研修:一番良い方法で楽器店で育てて頂きながら給料も頂くという特別に恵まれた環境で修理を習得することが出来ます。縁とタイミングが無痛かしいですが、アンテナを張っていると必ず募集はあります。最初、営業で入社して技術職に転向する場合も多くあります。

・スカウト:意外に多いのが楽器店の修理者と仲良くなっているうちにスカウトされるパターンです。知られていませんが他社からの移籍などはこの形が多いようです。

・プロ奏者の紹介:昔はこのパターンがとても多く、私もこの方法で修理者になりました。

・メーカー研修:製造メーカーに就職し、5~10年勉強してから修理の道に入る方法です。オーボエ、ファゴットは国内メーカーでは2社があります。海外のメーカーは、残念ながら就職の道は厳しく(就労ビザの取得、各国の事情等)ゲストとして数ヶ月学ぶのがやっとです。