FGメソード

ファゴットメソ-ド(バス-ン)

「楽しく吹こうよ!」
調整された良い楽器を使って練習しよう!
吹きやすいリ-ドを使おう!
正しい吹き方を学ぼう!

[目次]
 1.前書き、吹く前に、習い方
 2.健康をチェックしよう
 3.ファゴットの取り扱い
 4.ファゴットについて
 5.リ-ドとボ-カルについて
 6.基礎奏法「姿勢」
 7.「呼吸法」
 8.「アンブシュア」
 9.「タンギング」
10.「音」
11.運指について
12.毎日の練習

1.前書き
ファゴットは複雑な構造を持つため調整技術とリ-ドが難しい楽器でしたが、近年は双方とも飛躍的な進歩を遂げることで扱いやすい楽器になりました。しかし、吹き方は奏者の数だけあると言っても過言ではなく、初心者ならずとも困惑します。この本は初心者に分かり易く「あえて断定的」な言い回しを用いました。ただし、内容につきましては師事されている先生や著名なファゴット奏者が書かれた教則本や文献を優先してください。

[吹く前に]
*最初の一歩が大切!
練習は「必ず出来るんだ、うまく吹けるんだ」という気持ちを強く「失敗」の二文字は抹殺しましょう!上達するには日々の精進が大切で、基礎練を無視したり音色にこだわると「悪い癖」が付いてしまい、直すには3倍の労力と時間がかかります。

*楽器を響かそう!
良い響きは楽器を鳴らすだけでなく、身体を共鳴させて拡声器(スピ-カ-)の役目をすることで生まれます。
・息の震えで、気管や肺を共鳴させ、身体の内部を響かせます。
・リ-ドの振動で、鼻の奥の鼻腔を共鳴させ、頭を響かせます。
・楽器の振動を指で感じて、腕に伝え、身体の表面を響かせます。

*力の入れ具合
ファゴットはトロンボ-ンと同じく息の効率の良い楽器ですが、楽に吹いてはいけません。しかし、身体を響かせるためにはリラックスも必要です。演奏に不要なカ所に力が入ると身体は共鳴しません。強い力は基礎練習で意識的に力を入れて身に付けましょう。しかし、力を入れながら吹くと音楽を奏でることが難しくなるので演奏の時はその力を「無意識な力」に変えなければなりません。そのため、曲の練習や本番は力を意識しないように吹きましょう!

*暗譜のすすめ
暗譜は苦手と思っている方は少なくありませんが、暗譜しておくと一々楽譜を見たり内容を確認する作業が省かれるので演奏に余裕が生まれます。

*ファゴットの習い方
先生に習う場合は自分に合った方法を相談しながら教わりましょう。教わる際は礼儀正しく時間厳守で約束事は守りましょう。

2.健康をチェックしよう!*持病をお持ちの方は医師に相談して下さい
・息が苦しい:無理な吹き込みや極限までの息は貧血を起こすので、なるべく息継ぎを多く無理をしない吹き方をして下さい。貧血ぎみの方はなるべく座って練習しましょう。また、緊張の限界を超えると過呼吸(酸素を沢山補給しようとする急激な回数の呼吸)に陥ることがあります。そうなる前に冷静に浅く呼吸することが大切です。過呼吸に陥ったときは紙袋や大きな封筒を口と鼻に当て酸素の少ない空気を落ち着くまで呼吸して下さい。

・演奏前、演奏後は体操しよう!:演奏前は身体をほぐしましょう!効果的なのは運動選手が行なっている身体をねじる運動で、立った状態で片足をクロスし、その足と反対方向に両手を回すようにして身体を大きくねじります。体育座りでも効果がありますまた、演奏時に腰に負担がかかるのでぐるぐる回したり、かかとを地面につけたまま「しゃがんで」背筋を伸ばします。

・空気が鼻に抜ける:身体の限界を超えた息を使うと空気が鼻に抜けて音が出せなくなります。その時は楽なリ-ドに変え、強く息を押し込む吹き方はやめましょう。この症状は癖になるので発生したら必ず休憩してください。ただし、アクセント等で息が鼻から漏れることはあります。

・顎が痛い、口を開くと痛い(顎関節症):アンブシュアに力を長時間入れ続けると顎が痛くて口が開かなくなることがあります。これは顎や顔の筋肉に負担がかかり過ぎて起こるためで我慢できなくなったら迷わず休憩して下さい。もし、症状が出た場合は速やかに医師に相談して下さい。また、ボ-カルの角度や楽器を支えるストラップの長さを調節することで緩和される場合もあります。

・首や左手が痛い。指が痛くて動かなくなった(腱鞘炎):ファゴットは3.5~4.0kgと重いので首だけで支えようとしたり、長時間の練習や楽器を寝かせるような姿勢で吹くと左手が痛くなります。そのため、ストラップやバランサ-、姿勢等を工夫しましょう。楽器は全ての指で楽器を掴むように支えると軽減できます。また、腕や指を無理な態勢で動かすと指が痛みで動かせなくなります腱鞘炎は正しい腕や指の姿勢と適度に休憩を取ることで防止できます。

・腰痛が激しい:座った姿勢で重いファゴットを操作すると腰に負担がかかります。特に両足で体重を支えていない吹き方は「ぎっくり腰」予備軍になるので両足を踏ん張って腰を浮かせるくらいの気持ちで吹いてください。そして吹き終わったら必ず腰のストレッチを行なってください。腰をぐるぐる回したり「かかと」を地面につけたまましゃがみこんで背筋を伸ばします。腰痛は腹筋や背筋を鍛えることでも防ぐことができます。

・どうして上がるのかな?:本番で「頭の中が真っ白」になった経験はありませんか?上がらないためには「思い通りに吹けた」イメ-ジを持つことです。そして、本番2時間前までに食事を取り(水やお茶、日本ソバが良いらしい?)横になって神経を安らげることも必要です。また、ゲンを担いだり脳天を人差指で強く押したり顔をなでたり、腕や手を揉んだりしてリラックスさせると良いでしょう。


3.ファゴットの取り扱い
*楽器の組み立て方:ファゴットは長く重いので組み立ても慎重に行なわなければなりません。特にジョイントの接合部がコルク(通常は糸)の場合は入りにくいことが少なくないのできつい場合はグリスを使用します。

①ロングジョイントとベルジョイントを繋げ、続いてテナ-ジョイントとブ-ツジョイントを繋げます。1cmほど入れたら「グッ」と力を入れ、キ-同士がぶつからないようになるべくひねらないで押し込みます。その後、ロングジョイントの穴の曲線にテナ-ジョイントの形を合わせます。

②ブ-ツジョイントとロングジョイント&ベルを押し込むように入れます。

③テナ-ジョイントとロングジョイントをジョイントピンでロックするか、ロングジョイント中央のジョイントヒンジと呼ばれる金属板がテナ-ジョイントに当たるように向きを調節します。そしてハンドレストを装着します

④分解する場合は必ずジョイントのロックを解除してからブ-ツジョイントとロングジョイントから外します。そしてブ-ツジョイントとテナ-ジョイント、ロングジョイントとベルジョイントの順で外します。

*ボ-カルの差し込み方:ボ-カルは薄い金属のチュ-ブで柔らかく曲がったり凹んだりするので大切に扱ってください。特に楽器に差し込む場合は右手でボ-カルのppキ-ホ-ルあたりから曲がっている部分全体を5本の指で覆うように持ちます。コルクがきつい場合は無理をしないでください。ボ-カルを抜くときも同様に持ち慎重に抜いてください。

*リ-ドの差し込み方法:リ-ドは振動がボ-カルにしっかり伝わるように差し込みます。差し込む深さはボ-カルの先端から8~10mmのところです。

*ファゴットの置き方:ファゴットは長いので椅子や床には置かないでください。出来るだけ専用の楽器スタンドか面倒でも分解してケ-スにしまいましょう。よく部屋の隅に立てかけて置く方が少なくありませんが、その場合は楽器が滑って倒れないように十分工夫してください。ファゴットは組み立てたままで倒すとボ-カルが曲がったり、テナ-ジョイントが折れたりします。また、移動の際はケ-スにしまって移動してください。ステ-ジ移動などで組み立てたまま移動する場合は、ボ-カルだけは外してください。もちろん、リ-ドをボ-カルに付けたままの移動は厳禁です。

*メンテナンスの方法:演奏後は指紋や汗をクロスでバネに注意しながら丁寧に拭きましょう!又、キ-は黒く変色するので磨き専用クロスで強く擦らない程度に磨いて下さい。表面のほこりは毛脚の長いブラシできれいにします。キ-が黒ずんだり白くなる方はまめに手を洗いましょう。

*キ-オイルを注そう!:ファゴットのキ-は楽器の特性上、長くて余裕を持った動きに設計されています。なので他の楽器よりもキ-オイルを注す回数を増やさなければなりません。最低でも1カ月に一度はキ-オイルを注しましょう!方法はポストとパイプの間に専用のキ-オイルを付けてキ-を素早く何度も作動させ、ティッシュで残っているオイルを拭き取ります。

*掃除方法
ファゴットは水分を嫌う楽器なので演奏後は十分湿気を取り除いてからしまってください。特に新しい楽器のテナ-ジョイント部分は管の内側とト-ンホ-ルの隙間に水が溜まることでテナ-ジョイントの湾曲部分が白くなるトラブルが発生します。このトラブルはファゴットの表面に着色した塗料が薄まるのが原因で残念ながら元の色に直すことが出来ません。十分注意してこまめに水分を取り除くように心がけましょう。ドロップスワブは重りを管の太い方からゆっくり通し、数秒そのままにしてスワブに水をよく吸わせたら入れた方からゆっくり引っ張り出します。スワブを反対から引っ張り出す方法はお勧めしません。多くの場合は高音域のト-ンホ-ル等にゴミが溜まったり、高音域が不安定になる原因になります。プッシュスワブは管の太い方から入れ、数秒待ってからゆっくり抜き取ります。ファゴットは内径にでっぱりがある機種が多いので回転させないで軽く動かすように用います。ロングジョイントとベルジョイントの内側はモップのような掃除棒で綿ゴミ等をきれいにします。ブ-ツジョイントの一番下のキャップは強くにぎって振子のように動かしながらはずします。そしてU字管のネジを緩めてはずし、中の水分を取り除きます。この部分に一番水が溜まるので、この部分が腐ったり黒カビが発生しないようにU字管をはずしてケ-スにしまう方が大半です。取り付ける場合はねじを指でしっかり締めてください。ボ-カルの掃除は一週間に一度は必ず行ないましょう!ピッチが高いとか鳴らない原因の多くがボ-カルの中にゴミが溜まっている場合です。特にリ-ドの差し込み口から10cm位に汚れが溜まりので気をつけましょう!


4.ファゴットについて
*ファゴットの買い方:ファゴットは検品調整次第で良くも悪くもなります。吹いてみて低音から高音までスム-ズに鳴らせる楽器が良いでしょう。また、ファゴットは管楽器で唯一10本の指全てを用いるので手の大きさや指の長さに合わせたキ-の位置に調節しましょう。

*新品楽器の吹きはじめ(水抜き):新品楽器は最初の一週間は30分程吹いたらこまめに中の水滴を取り除いてください。ファゴットの大敵は湿気 です。特に指で直接押さえるト-ンホ-ルや、一番下のU字管に水が溜まったらスワブや綿棒でまめに掃除してください。ファゴットの演奏は姿勢が大切ですが、ファゴット本体の角度や向きもト-ンホ-ルからの水漏れを防ぐのに重要です。最初は楽器が床に立てるような角度で吹きます。また、指で直接押さえるト-ンホ-ルが床に向かないように時計回りにわずかに傾けることでト-ンホ-ルから水が流れ出すのを防ぐことが出来ます。 また、吹き続けるとボ-カルに水が溜まってパタパタ音が混ざります。この場合はリ-ドを抜いてボ-カルを直接口でくわえて吸うか、強く吹き流してください。楽器は吹き手の育て方次第で良くなります。くれぐれも楽器が「ぐれない」ように!尚、湿度の高い季節や毎日猛練習している方は、楽器ケ-スのふたは開けたままで練習してください。なるべくケ-ス内に湿気を溜めないことが大切です。

*ジョイント調整:ファゴットは湿気の多い季節は本体が膨張してジョイントがきつくなり、乾燥時期は逆に縮んで緩くなります。そのため、ファゴットのジョイントは糸になっています。通常は糸の増減で調整しますがグリスを使い分けると効果的です。ジョイントがきつい場合はさらっとしたグリスを、反対にジョイントが緩い場合は固いグリスを擦り付けるように多めに糸に塗るとぐらつきが軽減できます。

5.リ-ドとボーカルについて
*リ-ドが作れないとだめなの?:ファゴットは完成リ-ドを使います。もちろんリ-ドが作れるとメリットが一杯ありますが、リ-ド作りは楽器の上達と同じ位の時間と労力を要します。初心者は3~5本を使い回します。1~2本は本番や合奏用、1~2本は練習用、残りは慣らしリ-ドです。リ-ドの寿命は2週間から1ヶ月ですが数本を使い回すと長く使えます。

*リ-ドの使い方:ファゴットのリ-ドは水に付けたり乾かす度に変化するので、使用前に必ず指でリ-ドの開きを調節して自分に合った状態にしてから用います。まずはリ-ドを深くくわえて強くかつ優しく吹いて「ビャ-」という音(この音をクロ-と言います)を出します。「ピ-」だと先端の開きを大きくします。リ-ドが「バリバリ」する時はリ-ド全体を押さえて平べったく先端の開きを押さえます。

*リ-ドの取り扱いについて:リ-ドは吹かない時や移動する際はボ-カルから抜いておきます。使用しない時はリ-ドケ-スに保管します。購入時の容器やタッパ-で保管するとカビが発生するので絶対にやめてください。リードは湿度を一定(60%前後)に保管すると良い状態がキ-プ出来ます。特に乾燥時期は加湿が必要です。リ-ドは舐めるほど良くなるので、10~20回使うと馴染みます。また、リ-ドが鳴らなくなったら掃除をしてください。

*手直しに使用する工具と手直しの方法:リ-ドは削らないで直すことが基本です。指だけを使ってケ-ンの開きや膨らみを補正するだけで見違えるように良くなります。先端の開きが出なくなったりピッチが低い場合はリ-ドの根元をつぶし、高い場合は全体を膨らませるように開きを出します。

*工具を用いる調節方法
・ボ-カルの差込口にリ-ドが所定の深さまで入らない場合はリ-マ-か丸棒ヤスリで穴を大きくします。この工程はリ-ドが乾いた状態で行ないます。
・リ-ドの吹奏感や音色を変えたい場合は第1&第2ワイヤ-をペンチで押さえて先端の開きの形を変えます。
・上下のケ-ンのズレはプラ-クを挟んでねじって第1ワイヤ-で固定します。
・息漏れは長く水に付けても漏れる場合は第1ワイヤ-を締めたり、マニキュアを糸の部分に塗ります。
・古いリ-ドは汚れた表面にナイフを直角に当て手首を回すように回転させ引っ掻くようにこすり落とします。
・先端の端が欠けたりささくれだったりした場合は爪切り型等のリ-ドカッタ-で少し斜めにカットします。それでも改善されない場合は諦めましょう。再生は「どこで諦めるか」が肝心です。

[ボ-カルについて]
ボ-カルは楽器の一部で重要なので取り扱いには注意しましょう!ボ-カルは基本的に楽器本体と同じメ-カ-が良いとされていますが、他のメ-カ-でも相性が良ければ問題ありません。ボ-カルは1番の長さが基本でピッチが高い場合に2番を用います。ピッチの低い楽器用(0番)や高い楽器用(3番)は特別なので通常は用いません。


6.基礎奏法 姿勢
基本姿勢
まずはリラックスして寝ましょう。そして、頭が浮き上がらないように顎を引きます。両足を40cm程開き、つま先通しを近くかかと同士を離すように内股にします。すると床から背中だけが離れる姿勢になります。その状態で鼻から息を吸ってみましょう。脇腹から溝落ちにかけて膨らむように吸えますか?吸えるようになったら足を普通に戻します。次に楽器を持つようなイメ-ジで構えます。右肘が床に当たってはいけません。そして手首をわずかに反らすようにします。その状態で頭だけ持ち上げないように上半身全体を床から浮かせます。(腹筋練習の形)これが正しい姿勢です。次に寝た状態と同様に立った姿勢で壁にぴったり張り付いて練習します。特に「かかと、おしり、肩、頭」を壁にぴったり付けます。そして、足を肩幅に開いて「つま先」同士を近く「かかと」を離すように「ハ」の字を作ります。そして、肩をなるべく下げた状態で両手を前方に伸ばして合わせ、肘同士を「くっつける」ように肩幅を狭め頭が床から離れないように注意しながら顎を出来るだけ首に近づけます。その状態から楽器を持つ形を作ります。この時に右肘は体育で並ぶ際の「右にならえ」の状態にします。なるべく後ろに肘が下がらないようにするのがこつです。最後に正しいお辞儀をするように上半身をやや前方に傾けます。この時に頭が下がらないように注意しましょう

「かっこ良く美しい姿勢」は正座の姿勢に似て、背筋を伸ばし顎を引き肩を下げます。足は肩幅程度に開いて両足のつま先とかかと双方の間隔はほぼ同じで、正面が向けるように構えます。左足が下がると左向きになるので注意してください。左右の足の重心の割合は、ほぼ半々ですが両足が同時に曲がったり伸びた姿勢はかっこ悪いだけでなく身動きができなくなるので右足を軸に考えるとよいでしょう。

座った姿勢は椅子下に足を椅子の下に潜らせたり前に伸ばしてはいけません。良い座り方は「スッ」と立てる座り方です。座り方のこつはまず深く座り、その位置で立てるかどうかチェックしながら徐々に浅く座ってちょうど良い所を探します。もし、椅子の高さが合わない場合は足下に台を置くか「ざぶとん」を敷いて両足に体重がかかるように調節します。この時も内股が基本です。

ファゴットは両手と指10本全てを使ってしっかりと掴むように持ちます。最初に手首を反らした状態でファゴットを自分の正面に持ちます(楽器が床に垂直の状態にします)。手首を内側に曲げて抱え込むように持ってはいけません。その状態から楽器をわずかに寝かせるように構えます。寝かせすぎると左手の負担が大きくなります持つ角度が決まったら今度は楽器を時計と反対回りに微妙に回して指で押さえるホ-ル(F、E、D、C、H)が真下にならないようにします。こうすることでト-ンホ-ルからの水漏れを防ぐことが出来ます。楽器を組み立てたまま持つ場合は、必ずテナ-ジョイントとロングジョイントを両方持つように心掛けましょう!。絶対にベルジョイントだけを持たないようお願いします。継ぎ目が緩いと「ストン」と抜け落ちる危険があります。手が小さくて両方のジョイントが持てない場合はブ-ツジョイントを持つか両手で持つようにしてください。


7.基礎奏法 呼吸法
*息の使い方:ファゴットは上唇にリ-ドを当てたままで下唇を開けて呼吸します。練習ではなるべく大きく吸いますが、演奏時はあまり意識しないで吸います。呼吸は正しい姿勢と組み合わせて練習しましょう。最初は二段階で息を吸う練習からはじめます。最初に胸を大きく広げるように吸います。(胸式呼吸と考えてもかまいません)次に体の重心を押し下げるようにしながらお腹が膨らむように吸います。細長いゴム風船を膨らますと最初に手前だけが膨らみ、その後一番奥に向かって膨らむのと同じです。吐くときは肺に空気が沢山あるうちはお腹を押し出すように膨らむ感じで吹きますが、息が少なくなるにつれてお腹を引っ込ませながら内臓を上に押し上げるように吐きます。楽器を吹くには息の力が必要です。力の入れ具合は「溝落ち」を中心に行ないます。まず、「溝落ち」を親指で強く押さえ、親指を押し返す筋肉を感じてください。笑った時に動く筋肉です。次に瞬間的に「うっ」と声を出して親指を押し返してみましょう。この筋肉に力を入れながら音を出します。特に基礎練習では「おもいきり」力を入れながら吹きましょう!!ただし、曲の練習や本番ではその力を意識してはいけません。

*息の流れと戻りと息継ぎ:息の流れはリ-ドの細い穴に糸を通すように入れます。ただし、実際はリ-ドよりもやや下向きに息を出すように吹きます。息は強いほど良いのですが息の支えも相応に必要なので無理に力を込めてはいけません。ファゴットは自然の呼吸と同じ位の量で吹ける楽器なので、息継ぎもスム-ズに行なえます。息継ぎの際は必ずリ-ドを上唇(又は下唇)に当てた状態で行ないます。クラリネットのように横から吸ってはいけません。

*アインザッツ(音出し前の身体の動きや吸う音):アインザッツは呼吸の動きと常に一体で行ないます。まず、身体をかがませてファゴット本体を寝かせながら息を吐き、吸いながらファゴット本体と身体を両方起こし、いつもの姿勢に戻して吹きます。また、吸ってから吹く瞬間までの「間」は出したい楽音で時間が異なります。肺に満ちた息が自然に出てしまう間を狙って音を出すと柔らかい音やピアノを吹く場合に適しています。肺に満ちた息を止めない程度に「溜め」を作るとしっかりした音やフォルテを出すのに適しています。ただし、息を一度止めてから吹くと繊細な表現が出来なくなるのでよくありません。

*ヴィヴラ-トとゆらぎ(スモルツア-ト):ヴィヴラ-トは音を震わせる装飾音の一つでいろいろな方法がありますが、中低音を担当するファゴットには 「ゆらぎ」が適しています。ゆらぎは音量を増やす、戻すを1秒間に6回から8回繰り返し、音量差は音量記号がfの場合でのゆらぎは「f-mf-f-mf」で音量を下げて行ないます。練習方法は息を押し殺し「フゥー⇒オー」から 呼吸を胸から腹に押し下げるように息の量を減らします。


8.基礎奏法 アンブシュア
*アンブシュアって何?:アンブシュアとは口や唇及び回りの筋肉等を意味し、リ-ドと唇の接地面積、接地力、接地位置や口の中の空間の形状や体積によって音が変わります。これらを微妙に変えたり制御することで演奏します。アンブシュアの基本は上唇(又は下唇)にリ-ドを押しつけるようにしっかり当てることです。唇でリ-ドを噛む方法は適しません。下唇(又は上唇)は息が漏れないように塞ぐだけです。ピッチが低い場合や高音域を吹くときは特に下唇にしっかりとリ-ドを当てて下さい。一般的な目安は低音から高音に上がるときはリ-ドを下唇に当てて吹き、高音から低音に下がる場合は上唇にリ-ドを当てます。もう一つの基本は口の中を大きく「モ」の形に作ることです。そのためには、まず、口を尖らせて「ウ」の形を作ります。次にその形を維持しながら顎が首にくっつくように下げて「モ」の形に変化させてください。顎が外れるくらいのイメ-ジで行なうと良いでしょう。アンブシュアで注意することは唇の隙間から息が漏れないこと、ほっぺたを膨らませたり歯茎の隙間に空気を貯めないことです。アンブシュアと息継ぎは密接でこの場合は上唇(又は下唇)にリ-ドを当てたまま下唇(又は上唇)を開けて息継ぎを行ないます。

*「うわずる」のはアンブシュアが原因?:ある程度吹けるようになるとだれしも最初に陥るのがピッチが「うわずって」しまうことです。ファゴットは音域が広いので、その音域にあったアンブシュアを工夫しなければなりません。特に唇を緊張させて固く吹いた後に唇を緩めるのは難しく、この傾向に陥ると徐々にピッチが高くなってしまい元に直せなくなります。唇が疲れているとなおさらです。アンブシュアが緩まなければ低中音域のピッチが高くなります。これが「うわずり」の原因です。うわずりを解消するには下の音から上がる場合は下唇にリ-ドを押し当てるように吹きます。反対に高い音から低い音に移る場合は上唇にリ-ドをボ-カルがしなるくらい押し当てるようにすると簡単にピッチが保てます。いずれかの唇に押し当てるには楽器の角度を変えたり、顎を引いたり出したりすることでコントロ-ル出来ます。この動きが無意識に出来るように練習しましょう!

*どうして口が疲れるの?口ばてを防ごう!:ファゴットは比較的疲れない楽器ですが、無理なアンブシュアで吹いたり(リ-ドを噛んで吹く等)、リ-ドの先端の開きが2mm近く開いたリ-ドだと唇がばててきます。ばてを防ぐには軽いリ-ドを用いる事と、リ-ドを上唇(又は下唇)に押し当て下唇(又は上唇)は軽く添えるようにします。長時間吹けるようになるには我慢できる範囲で少しずつ長く続けることです。無理をすると悪い癖につながるので口が疲れたら休憩しましょう

9.基礎奏法 タンギング
*タンギング:タンギングは音の区切りだけでなくファゴットの特性を現わす不可欠な方法です。タンギングの動きはリ-ドを上唇(又は下唇)に押さえた状態で息を吸って(この時は舌はリ-ドから離れています)吐く寸前に唇を閉じて舌をリ-ドの先端に付け、息を出すと同時に舌をリ-ドから離し、唇を緩めて音「t」を発生させます。音を止めるには息を吐きながら徐々に唇を狭め、最後にリ-ドの先端を閉じて音を止めると同時に「n」を感じ、リ-ドの先端に舌を当て息の流れを遮断します。音の区切りは単音(ton、ten)も長い音も同じです(to-n、te-n)。タンギングの際の発音はto又はteが基本で、柔らかい発音はdoやdeを発音します。アタックは「ta」を用いると効果的です。一般的に管楽器では「tu」(フレンチ奏法)で表示されていますが、フアゴットはジャ-マン奏法なので表記を変えて説明しています。

*アタックタンギング(to)とフラットタンギング(te):アタックタンギングは全面に押し出す表現に適した方法で、リ-ドを舌で押してその反動を利用して離します。舌の動きは上向きでリ-ドを口から押し出すように発音するのでピッチは低めの傾向になります。フラットタンギングは上品で秘めた表現に適した方法で、リ-ドに舌で力を与えずに瞬間的に引くように離します。舌の動きは下向きでリ-ドが口の中に入るように発音するためピッチは高めの傾向になります。

*タンギングを速くしよう!:速いタンギングは一定のテンポを連続して練習することで実現しますが、日々の練習を怠たるとすぐに遅くなります。ゆっくりから徐々にテンポを上げて(四分音符=144)まで頑張ってみましょう。ファゴットは比較的早いタンギングが可能です。通常は(四分音符=144)程度で十分ですが、プロ奏者は(四分音符=160)近くまで可能です。

*ダブルタンギングにトライしよう:ダブルタンギングは舌で「to」を発音後下回転で「ko」を息の力だけでリ-ドを振動させるので「ko」の発音が明確になりません。「kokoko」だけを練習し「tokotoko」を均一に揃えましょう。


10.基礎奏法 音
*ピッチ:ピッチは音の高さでヘルツ(hz)で表示され、A(ラ)=442hzが一般的です。ピッチは温度(気温)で変わり楽器の温度が5度上がるとピッチは2hzから4hz[*]高くなります。[*442hz近辺での数値]ファゴットは楽器本体でピッチを変えることが出来ないのでボ-カルかリ-ド、吹き方で工夫します。ピッチが合わないからといってボ-カルを抜いてはいけません。ボ-カルは1番が基本ですが気温の高い季節や楽器によってピッチが高い場合は2番を用います。吹き方が原因でピッチが低い場合は息の強さが足りないか、リ-ドをしっかりくわえられていないのが原因です。逆にピッチが高い場合はリ-ドを深くくわえていたり強く噛んでいるためです。多くの場合、高音の緊張したアンブシュアのままで中、低音域を吹くと「うわずる」原因になります。また、人は高い響きほど美しく感じるらしく、音色を追求しすぎるとピッチは高めになります。

*音律:音律は数学的な間隔に分けた平均律と自然に聞こえる純正調(純正律)で各音の間隔は異なります。音律は時代や地域により沢山の種類がありますが、音律を習得するのは初心者には難しいので音楽が自然に流れるような音の高さを目指して下さい。

*音程:音程は二音間のピッチ差のことで音程が高い(低い)とは2つの音の幅が広い(狭い)意味になります。音程はcent(セント)で表示され半音間が100centです。A音(442hz)だと約4centで1hzの差になります。音程は和音を構成する音程と旋律の音程は異なり、和音で音程を変えることは知られていますが旋律は2、3、6、7度を高めに吹くとよりメロディらしくなります。その他にも高音域や導音は高め等、音程は常に変化するものと考えて下さい。そのため、たとえチュ-ナ-(平均律)で合っているからといって良い音楽が表現できるわけではありません。

*音色:音色は吹き手自身(基本は変わらない)と服やアクセサリ-といった身の回り品(テクニック)で構成されていて、音色はテクニックを指す傾向にあります。音色の好みは、豊かな響きで落ち着いた「草原の音色」と凝縮した響きで華やかで機能美的な「木の音色」に分かれます。音色は追求すればするほど演奏は上達しません。「音色を捨てよう!」これがうまくなる近道です。だれしも「良い音ですねえ」と誉められたいものですが、音色は上達の「おまけ」と考えましょう。日本人は「暗めで濁った音」を好む傾向にあります。これは年を重ねるごとにこの傾向は強くなるようです。色にすると「ねずみ色」を好み原色を嫌います。アマチュアほどこの傾向にあります。極力「暗い音色や詰まった音」を好まないようにしましょう。


11.運指について
*指の姿勢とキ-の離し方:楽器を吹く時はストラップや右手のハンドレストに頼らないで全部の指で楽器を支えるよう心がけて下さい。キ-はしっかり確実に「にぎりましょう!」。指の動きは「キ-の押さえ方」と表現されますが、これが悪い癖を付ける元凶です。キ-は「離し方」が大切です。キ-を離す指が弱いと音のミスにつながります。握力は強いほど良いのですが指を素早く離すことに役立てて下さい。指は卵をにぎるように持つのが基本で、素早く離すことでテクニックも向上し音ミスも防ぎます。遅いテンポでも機敏に動かしましょう。熱い物をさわって、あわてて手を引っ込める要領です。最初は指がキ-から遠く離れてしまいますが徐々に近くすれば大丈夫です。また、各指を丸くするには手首を反らした姿勢が良いでしょう。そのためには肘の位置が重要になります。肘が背骨のラインよりも後ろに下がってはいけません。特に右肘は体育の「右に習え」の状態を維持しましょう!

*正しい運指で練習しよう:運指は正しく覚えて下さい。最初は指の動きを観察しながら練習しましょう!指はキ-から1~2cm離れた付近に待機させキ-の中央を置きます。指を離す時は素早く引き押さえる時は軽く叩くようにします。ファゴットの最低音は「シb」ですが最高音は吹き手の技量次第です。「ミ」(ト音記号の五線の第二間)まで出れば合格です。「ファ」以上はプロ奏者以外必要ありません。ファゴットは替え指やトリルキ-等が沢山あるのでピッチや音色、音抜け等で自分に合った運指を選択してください。高音域はリ-ドや楽器に合った運指を選択しましょう。特に工夫が必要なのは左手人差指で押さえるFのホ-ルの塞ぎ方を「半分」「3分の2」「4分の1」といった具合に微妙に押さえることでピッチやダイナミクス、音の出しやすさ等が変わってくるので左手人差指の動きは繊細に行ないます。

*その他の運指:トリルは指を離す、押さえる動きを第二関節を中心に指を瞬間的に引くようにします。トリルはリラックスした指で行ないましょう。グリッサンドは指を徐々に開けて息の量を多めに吹き上げる奏法で、通常の指の動きと反対に指を押し出すようにゆっくり動かしますが至難の技です。現代曲は四分の一高い音(又は低い)等特殊な運指が必要なので現代奏法の運指表で調べて下さい。


12.毎日の練習
練習は「うまくいく」という気持ちと「出来る速さ、短く区切る、集中できる時間」で行ないます。また、自分の音がイメ-ジと違う場合はすぐに止めて補正する習慣を身に付けましょう。人間は覚えるのに最低15~20分必要なのでこの単位で練習しましょう。

①楽器を持たない練習、リ-ドだけの練習、楽器を持つだけの練習(15分)
呼吸練習は沢山息を吸ってそのまま1分から2分息を止めて我慢する練習(最後に息を吐く際は「プハッ」とならないように素早く「ハ-」と静かに吐きます)、大きく息を吸ったら30秒から40秒少しずつ一定量を吐く練習をします。次にリ-ドだけを吹いてクロ-(カラスの泣き声に似たギャ-という濁った音)という特殊な音を出して、先端の開き等を調節しながら吹きやすくします。最後に楽器を持って指が正しく美しく素早くキ-から離せるように反復しましょう。離し方に慣れたらアインザッツ(吹く前の動作)を大きく息を沢山吸いましょう!

②リズム感とテンポ感を身に付けよう!
ファゴット奏者で大切なのがリズム感&テンポ感で、出来ていないと音楽は良いものにはなりません。リズム感の練習はメトロノ-ムを使って音の分割や強弱、グル-プ分けが正確に出来るように練習します。テンポ感はストップウォッチを使ってテンポ感(スピ-ド感)が正しく感じられるように練習します。

③ロングト-ン練習(15分)
ロングト-ンはイントネ-ションや息、テンポ&リズムを考え音の終始に注意します。音出しは必ずタンギングします。テンポ感はゆっくり吸って遅い、早く吸って早いテンポを心掛けましょう!音の流れは息を徐々に強く量を徐々に減らす加速音と、息の勢いを徐々に下げ量を徐々に増やす減速音を練習しましょう。ダイナミクスはピッチが変らないように息の量と勢いを調節し、最後にヴィブラ-トの練習をします。

④音階練習[スケ-ル](15分)
音階練習は各音の音質や音量、音色を統一させる練習です。音はイメ-ジしてから出しますが、途中で音色やピッチを変えてはいけません。その場合はすぐに止めて修正して繰り返し練習します。さらに、各調や半音階、分散和音(アルペジオ)にア-ティキュレ-ションを取り入れてテンポやリズムを表現して下さい。

⑤メロディの吹き方(15分)
楽譜中の言葉や記号は調べておきましょう。次に曲のテンポとリズムを感じます。調子や拍子、ア-フタクト等でテンポとリズムは変わりますが、難しいカ所だけ遅くならないように全体のテンポを守りましょう!それから各音の役割を見極め、ダイナミクスやヴィヴラ-ト等を用いて音楽を完成させます。

⑥テクニックを磨こう!(60分)
教則本はテクニックを習得するために時間をかけて取り組みましょう!最初はメソ-ド(ワイセンボ-ン)で音の出し方を学び、デイリ-エクササイズでウォ-ミングアップを兼ねて各調子や音の繋がりを練習し、平行してエチュ-ドで音楽の作り方を学びます。

⑦曲、合奏(アンサンブル)を楽しみ、自分の音楽を聞いてもらおう!(60分)
合奏やパ-ト練習はアインザッツや音量等協調性を大切にしましょう。アンサンブルは自分の音や回りの音をよく聞いてバランスに気を使い、全員で一つの音楽を作り上げることが喜びにつながります。大切な事はスタンドプレ-をしないことです。